翠帳紅閨 ――闇から来る者――

文月 沙織

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闇の炎 一

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 数秒、その腕を凝視したあと、竹弥はその道具の使途に思いいたって、耳朶が熱く燃えるのを悟った。
「こ、これ……!」
「面白いものでしょう? もっといろいろありますよ」
 人形の腕は赤子の腕ほどの大きさである。だが、その付け根に当たる部分には、信じられないものが取り付けてあった。
 男性器をかたどった、淫らな道具である。
 陶器でできているのか、蔵の薄闇のなか、妙にてらてらと鼠色に光って見える。 
 竹弥は後ずさった。
「ほら、これも」
 竹弥の怯えた態度がおもしろいのか、杉屋は調子にのって別の腕を取り出して、突き出してくる。
 象牙のもので、最初に見せられたものよりかはやや大きく、竹弥を赤面させた。
 竹弥は全身が熱く燃えるのを自覚した。
 ちょうど一月半ほどまえ、二十歳になった竹弥は、まだ異性というものを知らない。生まれ育ちにくわえて人並みより恵まれた容姿のせいで目立つせいか、女性というものには慎重……というより臆病になっているところがあるのだ。
 中学生、いや小学校も高学年になるころから、竹弥が女子と少しおしゃべりしたり、親切にしたりすると、周囲がやたらと騒ぐようになり、鵜の目鷹の目で見張られているようで、閉口させられた。それが面倒くさく、女子とは意識してかかわらないようにしてきたところがある。
 それは大学に入ってからも変わらなかった。教室やゼミでもつねに異性には壁をつくっているところがあり、それとなく誘われてもやんわりと断ってきた。男子寮に入ったせいもあって、未だに女性というのは遠い存在である。性体験どころか、手を握ったこともないほどだ。親しく言葉をかわしたことも少ない。 
 そうやって竹弥が壁をつくってしまうせいか、女生徒たちの多くは竹弥に近寄りがたいものを感じて、憧れはしてもみずから近寄ってはこない。
(近江君て、なんだか冷たい感じがする……) 
(でも、そこがかえって素敵。いかにも梨園の王子様よね) 
 そう言われていることも知っているが、批判も賞賛も気にしていなかった。まだ女性にたいして興味も欲望もわいてこないのだ。
 そんな無垢な竹弥にとって、目の前のおぞましい異形の道具は驚愕と恐怖の対象でしかない。
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