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異界 二
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普段はもっと乱暴な言葉遣いなのだろう。それをごまかすような、とってつけたようなわざとらしい丁寧さが癇にさわるが、顔には出さないように竹弥は注意した。
「本当に色男だね。いや、色男というのとは違うかな。美男子……ハンサムというのかね」
食い入るように自分を凝視する男の視線に、一瞬、竹弥はひるんだ。獲物をねらう鷹のように思えたのだ。ひるんだ自分がくやしく、わざと軽く笑ってみせた。
「たいしたことないですよ」
「父親にも似ているけれど、兄さんにも似ているかな……?」
竹弥は複雑な顔になったいたろう。父も兄も役者で当然ととのった顔立ちではあるが、竹弥は二人にはあまり似ていないと思っている。一番似ているのは……つぎに来る言葉を予想して身がまえた。
「だが、やっぱり、あんた貴蝶に似ているね。写真で見たことあるが、レディ・チャタレイにそっくりだな」
やっぱりそうきたか、と竹弥は臍を噛み、笑って受けながす努力をした。
「そうですかね」
なるべくあっさりした口調をつくってみる。
「いや、本当にそっくりだ。鼻筋といい、目元といい、生き写しだな。レディ・チャタレイがそこにいるみたいだ」
レディ・チャタレイ、という言葉を相手がはなったとき、そこに軽い揶揄のようなものを感じて竹弥は鼻白む。そんなことでいちいち逆上していたら役者の子など勤まらないだろう、と兄がこの場にいたら叱るだろうか。
「あの、なかの整理をするんですよね?」
声はさすがに権高になっていたかもしれない。杉屋が黒い形の良い眉をややまるめた。
「ええ、そうですね。じゃ、始めましょうか」
重々しい観音扉を全開にして、二人は蔵のなかへ入った。
「本当に色男だね。いや、色男というのとは違うかな。美男子……ハンサムというのかね」
食い入るように自分を凝視する男の視線に、一瞬、竹弥はひるんだ。獲物をねらう鷹のように思えたのだ。ひるんだ自分がくやしく、わざと軽く笑ってみせた。
「たいしたことないですよ」
「父親にも似ているけれど、兄さんにも似ているかな……?」
竹弥は複雑な顔になったいたろう。父も兄も役者で当然ととのった顔立ちではあるが、竹弥は二人にはあまり似ていないと思っている。一番似ているのは……つぎに来る言葉を予想して身がまえた。
「だが、やっぱり、あんた貴蝶に似ているね。写真で見たことあるが、レディ・チャタレイにそっくりだな」
やっぱりそうきたか、と竹弥は臍を噛み、笑って受けながす努力をした。
「そうですかね」
なるべくあっさりした口調をつくってみる。
「いや、本当にそっくりだ。鼻筋といい、目元といい、生き写しだな。レディ・チャタレイがそこにいるみたいだ」
レディ・チャタレイ、という言葉を相手がはなったとき、そこに軽い揶揄のようなものを感じて竹弥は鼻白む。そんなことでいちいち逆上していたら役者の子など勤まらないだろう、と兄がこの場にいたら叱るだろうか。
「あの、なかの整理をするんですよね?」
声はさすがに権高になっていたかもしれない。杉屋が黒い形の良い眉をややまるめた。
「ええ、そうですね。じゃ、始めましょうか」
重々しい観音扉を全開にして、二人は蔵のなかへ入った。
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