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桜の邸 五
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何ごともなければ、今頃あいつとは、どうしていたろう。
さっそく六畳ほどの茶の間になる室に寝ころんで、竹弥はとりとめなく考えた。
午後の陽光が心地よいので、開けっ放しにした縁側からは、桜の花びらが季節の風に吹かれて舞い込んできそうだ。そうなれば、さぞ風流で雅なことだろう。
(まぁ、掃除が大変だろうけどな)
内心、苦笑する。
義母は家政婦をおくると言っていたが、敢えてことわって、竹弥は自分で全部すると言いはった。身体を動かした方が健康にもいいし、掃除ぐらいなら寮でもしていた。
(実家にいたときは、なにもしていなかったからな)
実際には、なにもさせてもらえなかったのだが、それに慣れてしまっており、身のまわりのことはすべて義母や古くからいる女中にまかせっぱなしで、掃除、洗濯、炊事は勿論、その日に着る自分の服ですら自分で用意したことも、ほとんどなかったぐらいだ。だからこそ、旧弊な実家を出て大学に入ると同時に寮に入ったときは、新鮮だった。おおげさな話、やっと自由を手に入れたと思ったものだ。
義母にも女中たちにも世話にならず、ささやかながら得た心の平和と自由は、竹弥にとってはありがたかった。
自分たちの部屋を自分で掃除し、洗濯物は自分であらうか、洗濯賃を払って寮母に頼む。食事は食堂でみなで取る。遅くなるときは賄いさんが作り置きしてくれたおにぎりですます。そんな寮暮らしは、さして自立しているとはいえないが、それでも、そこにはささやかながら、竹弥にとっては新たな世界と人間関係があった。
古くさい役者稼業の家に生まれ育ち、つねに使用人や見習い役者たちのなかで生まれ育った竹弥には、すべてが珍しく、おもしろかった。
竹弥自身は、芝居は好きだが、勉強もしてみたいので、今は学業優先ということになっている。
いずれは大がかりな舞台に出ることもあり得るかもしれないが、大学で専攻している英米文学の世界も興味ぶかく、父も、それがいつか役者としての肥しになれば、と猶予期間をくれている。兄がすでに役者として活躍しているので、次男には好きな道をいかせてもいいと思っているのだろう。
さっそく六畳ほどの茶の間になる室に寝ころんで、竹弥はとりとめなく考えた。
午後の陽光が心地よいので、開けっ放しにした縁側からは、桜の花びらが季節の風に吹かれて舞い込んできそうだ。そうなれば、さぞ風流で雅なことだろう。
(まぁ、掃除が大変だろうけどな)
内心、苦笑する。
義母は家政婦をおくると言っていたが、敢えてことわって、竹弥は自分で全部すると言いはった。身体を動かした方が健康にもいいし、掃除ぐらいなら寮でもしていた。
(実家にいたときは、なにもしていなかったからな)
実際には、なにもさせてもらえなかったのだが、それに慣れてしまっており、身のまわりのことはすべて義母や古くからいる女中にまかせっぱなしで、掃除、洗濯、炊事は勿論、その日に着る自分の服ですら自分で用意したことも、ほとんどなかったぐらいだ。だからこそ、旧弊な実家を出て大学に入ると同時に寮に入ったときは、新鮮だった。おおげさな話、やっと自由を手に入れたと思ったものだ。
義母にも女中たちにも世話にならず、ささやかながら得た心の平和と自由は、竹弥にとってはありがたかった。
自分たちの部屋を自分で掃除し、洗濯物は自分であらうか、洗濯賃を払って寮母に頼む。食事は食堂でみなで取る。遅くなるときは賄いさんが作り置きしてくれたおにぎりですます。そんな寮暮らしは、さして自立しているとはいえないが、それでも、そこにはささやかながら、竹弥にとっては新たな世界と人間関係があった。
古くさい役者稼業の家に生まれ育ち、つねに使用人や見習い役者たちのなかで生まれ育った竹弥には、すべてが珍しく、おもしろかった。
竹弥自身は、芝居は好きだが、勉強もしてみたいので、今は学業優先ということになっている。
いずれは大がかりな舞台に出ることもあり得るかもしれないが、大学で専攻している英米文学の世界も興味ぶかく、父も、それがいつか役者としての肥しになれば、と猶予期間をくれている。兄がすでに役者として活躍しているので、次男には好きな道をいかせてもいいと思っているのだろう。
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