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深宮の花婿 五

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 ここへ来るまえにピロテスたちによって下肢に強制された悪戯を思い出すと、アレクサンダーの頬はどうしても熱くなる。
 やはりアレクサンダーは逡巡してしまう。
 すでに幾度となく晒しものにされ、激しい侮辱と狼藉を受けてきたが、いまだに慣れることなどできないでいるアレクサンダーだ。
「つづけるのだ」
 レキウスの声は冷たいが、そこに熱がこもってきているのを感じた。
 アレクサンダーは帯紐に触れている指をうごかした。同時に息をちいさくのみ、天を仰ぐように首そらした。
 目を閉じる前の視界に、ほくそ笑んでいるピロテスの顔が一瞬入った。
 かすかに、あるかなしかの衣擦れの音がたち、壁際の蝋燭が揺れ、光が跳ねる。
 アレクサンダーはさらにしっかりと目を閉じ、レキウスの嘲笑の声が聞こえるのを待った。せめて涙は流したくない。 
 だが、数秒待っても嘲りの声はなく、かわりに奥室に響いたのは、レキウスの呼吸の音だった。
 つづいて響いた言葉は、アレクサンダーの耳を疑わせるものだった。
「なんと……美しい……」
 男でも女でもない、摂理に反したこの身体を、残酷な調教師によって醜悪な悪戯を強いられたこの身体を、レキウスは美しいと評したのだ。
「なんと……見事な……」
 揶揄ではなく、真剣味をおびた声に、アレクサンダーは目を開いた。
 レキウスのブラックオパールの瞳は貴重なものを見たように輝いている。
 本気でレキウスはこの異形の身体に感嘆しているのだ。
 困惑しているアレクサンダーのまえに、驚いたことにレキウスは片膝をついて身をかがめた。今度は彼の衣が白波となって石床に流れる。
「あ……」
 ピロテスによって被せられた薄布の上を、レキウスの指が突く。
 この股袋こそひどい拷問だった。アレクサンダーを辱める目的で穿かせられたものである。昔の欧州の男たちはこういった装身具を男性性を誇るために着けたであろうが、今のアレクサンダーにとっては、みずからの尊厳と矜持を砕くために着けさせられた刑具そのものだ。
 そんなアレクサンダーの想いを知ってか知らずか、レキウスは細長い指でそこを突く。
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