179 / 192
深宮の花婿 一
しおりを挟む
重々しい扉が開かれると、つぎにあらわれたのは薄紫の布幕だった。芝居の幕のようだとアレクサンダーは皮肉に内心で嗤った。
左右に引かれ、あらたな場面が展開していく。
高雅なかおりがアレクサンダーの鼻腔をおそった。
「殿下、花嫁御寮のお出ましでございます」
左脇にひかえていたのは、アレクサンダーも見たことのあるソロモンだ。黒いマントのような衣をまとい、片目だけでアレクサンダーをぶしつけに見つめる。
「これは……すっかり立派な……淑女になったのぅ」
嘲りではなく本気で言っているところが、いっそうアレクサンダーの癇にさわったが、ただ無言で耐えた。
「ピロテス、ここまで調教するのはさぞかし大変だったであろう?」
ソロモンのねぎらいのこもった言葉に、ピロテスは満足そうに笑った。
「ほほほほほ。なんの。久々にやりがいのある仕事であったわ。じゃじゃ馬も、今はこのように可憐な花嫁じゃ」
「閨の方も……か?」
ひそめたしゃがれ声に卑しさがこもっている。
ピロテスはかるく頷いた。
「きっと殿下にもご満足いただけると思うが、やはりときどきじゃじゃ馬にもどってしまうことがあってなぁ。困ったものじゃ」
「殿下の前では従順でいるのじゃぞ。万が一にも殿下を怒らせれば、おまえは生きてこの島から出れんぞ。まぁ、どのみち、おまえは一生この島から出られぬがな」
二人がそんな会話をしていると、奥室から声が響いてきた。
「なにをしておるのじゃ? はやく花嫁をつれてくるがよい」
聞き覚えのある声。まちがいなくかつて一度会った〝殿下〟の声である。
アレクサンダーの鼓動は高鳴った。
さすがに緊張感と、そしてやはり捨てきれない屈辱感がこみあげてきた。
かつて広間で出会ったとき、アレクサンダーは男であり、戦士であった。だが、今は……。
左右に引かれ、あらたな場面が展開していく。
高雅なかおりがアレクサンダーの鼻腔をおそった。
「殿下、花嫁御寮のお出ましでございます」
左脇にひかえていたのは、アレクサンダーも見たことのあるソロモンだ。黒いマントのような衣をまとい、片目だけでアレクサンダーをぶしつけに見つめる。
「これは……すっかり立派な……淑女になったのぅ」
嘲りではなく本気で言っているところが、いっそうアレクサンダーの癇にさわったが、ただ無言で耐えた。
「ピロテス、ここまで調教するのはさぞかし大変だったであろう?」
ソロモンのねぎらいのこもった言葉に、ピロテスは満足そうに笑った。
「ほほほほほ。なんの。久々にやりがいのある仕事であったわ。じゃじゃ馬も、今はこのように可憐な花嫁じゃ」
「閨の方も……か?」
ひそめたしゃがれ声に卑しさがこもっている。
ピロテスはかるく頷いた。
「きっと殿下にもご満足いただけると思うが、やはりときどきじゃじゃ馬にもどってしまうことがあってなぁ。困ったものじゃ」
「殿下の前では従順でいるのじゃぞ。万が一にも殿下を怒らせれば、おまえは生きてこの島から出れんぞ。まぁ、どのみち、おまえは一生この島から出られぬがな」
二人がそんな会話をしていると、奥室から声が響いてきた。
「なにをしておるのじゃ? はやく花嫁をつれてくるがよい」
聞き覚えのある声。まちがいなくかつて一度会った〝殿下〟の声である。
アレクサンダーの鼓動は高鳴った。
さすがに緊張感と、そしてやはり捨てきれない屈辱感がこみあげてきた。
かつて広間で出会ったとき、アレクサンダーは男であり、戦士であった。だが、今は……。
12
お気に入りに追加
127
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
明智さんちの旦那さんたちR
明智 颯茄
恋愛
あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。
奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。
ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。
*BL描写あり
毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!
梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!?
【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】
▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。
▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。
▼毎日18時投稿予定
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる