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深宮の花婿 一
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重々しい扉が開かれると、つぎにあらわれたのは薄紫の布幕だった。芝居の幕のようだとアレクサンダーは皮肉に内心で嗤った。
左右に引かれ、あらたな場面が展開していく。
高雅なかおりがアレクサンダーの鼻腔をおそった。
「殿下、花嫁御寮のお出ましでございます」
左脇にひかえていたのは、アレクサンダーも見たことのあるソロモンだ。黒いマントのような衣をまとい、片目だけでアレクサンダーをぶしつけに見つめる。
「これは……すっかり立派な……淑女になったのぅ」
嘲りではなく本気で言っているところが、いっそうアレクサンダーの癇にさわったが、ただ無言で耐えた。
「ピロテス、ここまで調教するのはさぞかし大変だったであろう?」
ソロモンのねぎらいのこもった言葉に、ピロテスは満足そうに笑った。
「ほほほほほ。なんの。久々にやりがいのある仕事であったわ。じゃじゃ馬も、今はこのように可憐な花嫁じゃ」
「閨の方も……か?」
ひそめたしゃがれ声に卑しさがこもっている。
ピロテスはかるく頷いた。
「きっと殿下にもご満足いただけると思うが、やはりときどきじゃじゃ馬にもどってしまうことがあってなぁ。困ったものじゃ」
「殿下の前では従順でいるのじゃぞ。万が一にも殿下を怒らせれば、おまえは生きてこの島から出れんぞ。まぁ、どのみち、おまえは一生この島から出られぬがな」
二人がそんな会話をしていると、奥室から声が響いてきた。
「なにをしておるのじゃ? はやく花嫁をつれてくるがよい」
聞き覚えのある声。まちがいなくかつて一度会った〝殿下〟の声である。
アレクサンダーの鼓動は高鳴った。
さすがに緊張感と、そしてやはり捨てきれない屈辱感がこみあげてきた。
かつて広間で出会ったとき、アレクサンダーは男であり、戦士であった。だが、今は……。
左右に引かれ、あらたな場面が展開していく。
高雅なかおりがアレクサンダーの鼻腔をおそった。
「殿下、花嫁御寮のお出ましでございます」
左脇にひかえていたのは、アレクサンダーも見たことのあるソロモンだ。黒いマントのような衣をまとい、片目だけでアレクサンダーをぶしつけに見つめる。
「これは……すっかり立派な……淑女になったのぅ」
嘲りではなく本気で言っているところが、いっそうアレクサンダーの癇にさわったが、ただ無言で耐えた。
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「閨の方も……か?」
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「殿下の前では従順でいるのじゃぞ。万が一にも殿下を怒らせれば、おまえは生きてこの島から出れんぞ。まぁ、どのみち、おまえは一生この島から出られぬがな」
二人がそんな会話をしていると、奥室から声が響いてきた。
「なにをしておるのじゃ? はやく花嫁をつれてくるがよい」
聞き覚えのある声。まちがいなくかつて一度会った〝殿下〟の声である。
アレクサンダーの鼓動は高鳴った。
さすがに緊張感と、そしてやはり捨てきれない屈辱感がこみあげてきた。
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