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床入り準備 九
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二人は高級そうな作りの函をささげている。大きめの宝石箱のようで、そこには慣例にのっとって必要な物がおさめられている。
「ほほほほ。ちょっとした花嫁行列じゃな」
長い廊下を、ピロテスを先頭に一行はすすむ。マヌエルの後ろには私兵がつづく。
廊下には召使たちが並び、ピロテスが前をとおると頭を下げるが、彼らの視線はアレクサンダーに集中している。好奇心が感じられた。
幸いヴェールをかぶせられているので顔はそう見られずすむが、この状況はアレクサンダーにとっては時間が長く感じられる。
(うっ……)
内部の宝玉がアレクサンダーを責めるのだ。
額にはじんわりと汗が浮く。
前後を責める玉のために、どうしても動きが緩慢になるのは仕方ない。召使たちの目にどううつったか。召使だけではなく、館の囚われ人たちの姿も見える。なかには、かつてアレクサンダーとともに連れてこられ、奴隷とされた者の顔も見える。
歩くたびに下半身に激しい波が寄せてき、それが苦しいというのに、身体はたかぶってくる。そのたかぶりがまたアレクサンダーを苦しめる。
ほとんど意識が朦朧とするなか、廊下の片隅に、アレクサンダーは金髪の青年を見た。
リカルドである。以前、浴場ですこし話したことのある青年だ。あのときよりやつれた感じなのは、彼もまた苦難の日々を送っているからだろう。
アレクサンダーの鼓動は激しくなった。
ヴェールやドレスを着せられ歩かされているのがアレクサンダーだと気づいたろうか。いまやアレクサンダーにとってヴェールは命綱だ。
一行は、彼の前を通り過ぎていく。
リカルドは訝しむような顔で奇妙な行列を見ている。
その目に疑惑があることを、敏感なアレクサンダーの神経は感じとってしまう。
アレクサンダーは目を伏せた。だが、……。
ちょうど、リカルドの前にさしかかったとき、アレクサンダーは唇を噛み、顔を上げた。
アレクサンダー=フォン=モールは、いかなるときも背を曲げず、誰の前でも顔を伏せることはない。
「ほほほほ。ちょっとした花嫁行列じゃな」
長い廊下を、ピロテスを先頭に一行はすすむ。マヌエルの後ろには私兵がつづく。
廊下には召使たちが並び、ピロテスが前をとおると頭を下げるが、彼らの視線はアレクサンダーに集中している。好奇心が感じられた。
幸いヴェールをかぶせられているので顔はそう見られずすむが、この状況はアレクサンダーにとっては時間が長く感じられる。
(うっ……)
内部の宝玉がアレクサンダーを責めるのだ。
額にはじんわりと汗が浮く。
前後を責める玉のために、どうしても動きが緩慢になるのは仕方ない。召使たちの目にどううつったか。召使だけではなく、館の囚われ人たちの姿も見える。なかには、かつてアレクサンダーとともに連れてこられ、奴隷とされた者の顔も見える。
歩くたびに下半身に激しい波が寄せてき、それが苦しいというのに、身体はたかぶってくる。そのたかぶりがまたアレクサンダーを苦しめる。
ほとんど意識が朦朧とするなか、廊下の片隅に、アレクサンダーは金髪の青年を見た。
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アレクサンダーの鼓動は激しくなった。
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一行は、彼の前を通り過ぎていく。
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その目に疑惑があることを、敏感なアレクサンダーの神経は感じとってしまう。
アレクサンダーは目を伏せた。だが、……。
ちょうど、リカルドの前にさしかかったとき、アレクサンダーは唇を噛み、顔を上げた。
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