紅蓮の島にて、永久の夢

日影の宮殿 五

「本当？」
　碧の瞳に安心が光る。
「ああ。だから、おまえもこのことは他の人に言っちゃいけないよ。じいさんも反省しているから」
「う、うん」
　不承不承というふうだが相手はうなずく。
「いい子だ。お嬢ちゃん、名前はなんていうんだ？」
「ロ、ロザモンド。ロザモンド＝クロフォード」
　どこかで聞いた名前に似ているが、思い出せない。無知なヴルブナはロザモンド＝クリフォードという名のイギリス史に名をのこした絶世の美女がいたことを知らない。
「へえ。いい名前だな」
「クロフォードは父さんの姓なの。会ったことないけれど」
　正式な名ではないようだ。おそらく父親は島に遊びにきた富裕層の客なのだろう。みすぼらしく言葉遣いも悪いが、少女の顔にはどことなく品が感じられる。父親は貴族だったのかもしれない。
「そうか、いい子だ、ロザモンド。ほら、仕事場に戻るがいい。薬代はあとで届けてくれるよ。これは、俺からの心づけ」
　ヴルブナは相手にこの島の硬貨をわたした。
「あ、ありがとう」
　エプロンのポケットに大事そうにコインを入れると、ロザモンドは小走りで去っていく。
「さてと、それじゃ坊さん、俺の相談にのってもらおうか」
「何が欲しいのじゃ？　金か？　儂は聖職者じゃ。金はそうないぞ」
　ばつが悪いのか、ぶっきらぼうに言うソロモンにヴルブナは頭を振った。
「頼みを聞いてほしいんだ。あんたなら出来ることさ」