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日影の宮殿 三

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 思いつめたまま廊下を無意識で歩いていると、甲高い声が響いてきた。
「いや! いやだ!」
 ヴルブナのまえに転がるようにして出てきたのは、小柄な女性だった。
「こら! 待て、逃げるでない!」
 びっくりして足を止めると、すぐにもう一人の人物がおなじく転がるようにして出てきた。
 その人物を見て、さらにヴルブナは驚いた。
「あんた……たしか、坊主の」
 黒衣をまとった老いた男もヴルブナを見て驚愕している。
「覚えているぞ、以前見たことがあるぞ。あんた、たしか……」
 なにかの儀礼的用事か、仰々しく召使たちに玄関で出迎えられていた老人を、偶然ヴルブナは廊下の影から見かけたことがあり、その名前が印象的なので記憶に残っていたのだ。
 ひからびた皮膚にひきつるような傷がある。まちがいない。
「たしか、ソロモンとか呼ばれていた坊さんだったよな?」
 名を呼ばれて相手はさらに驚愕した。
 そして、廊下にうずくまっている小柄な女性にあらためて目を向け、ヴルブナは笑った。
 女性は思っていたよりずっと若い。いや、幼いといっていい年齢だ。粗末な欧米風の庶民的な服装のうえに、白いエプロンをつけている。厨房の下働きだろう。追い詰められた鼠のように怯えた顔のなかに光る碧の瞳が目立った。
「やっ……、こ、これは」
 一目で何があったか理解できたヴルブナはさらに笑った。
「ははーん。坊さんは子どもがお好みのようで」
 少女のあどけない顔を見て、ヴルブナは事情を察した。
祖国にも、こういった趣味の男はいる。娼館でもなるべく若い娘をこのみ、それでも物足りないときは裏のルートをつかってさらに幼い子どもを調達させる。もちろん違法だが、金と力のある男はうまく切り抜け、おのれの欲望を果たす。いつの時代でも、どこの国でも行われていることだ。
「誤解だ! こ、この娘は素行が悪いので儂が注意していたのだ」
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