紅蓮の島にて、永久の夢

淫花開花 九

　そのためこの島には混血児が多いが、おおらかな民族性のせいか、差別されることもあまりなく、受け入れられている。
　だが、ヴルブナが欲しいのはアレクサンダーだけなのだ。アレクサンダーでなければ、彼の内の煮えたぎる欲望はしずめられなくなっているのかもしれない。
（気の毒なことだな）
　と思いつつ、内心マヌエルは笑った。
　アレクサンダーほどの相手は、祖国の高級娼館でもそうそういない。
　欧州の社交界には素晴らしい名花がいるだろうが、祖国でのヴルブナの立場ではそんな高嶺の花を手折れるわけもなく、なによりも、どんな素晴らしい女性でも、男でも、アレクサンダーその人ではないのだ。
　ヴルブナは知らぬうちに、この館の罠にかかったのだ。
　ピロテスが巧みに織り上げた蜘蛛の巣にひっかかってしまっているのだ。しかも本人はまだそのことに気づいていない。
　マヌエルは内心、痛快に思っていた。
　それこそピロテスの狙いなのだ。
　これからヴルブナは自らが与くみした陰謀と仕掛けた残酷な罠のために、愛欲の地獄をさまようことになるのだ。
「アレクサンダーの相手は誰なんだ？」
　ヴルブナの声は低いが怒りがこもっている。
　マヌエルはわざと言いにくそうに言ってみた。
「名前は言えませんが……高貴な身分の方です」
　これでまたヴルブナは苦しむ。アレクサンダーを自由にできるのは、身分高い上流階級の人間である。ヴルブナ自身の意思でアレクサンダーを抱くことなどできないのだと身に染みて知るだろう。そして苦しむのだ。
　人は誰しも生まれ落ちた立場からは逃げられないのだ。今の欧米社会では努力と才能である程度は変えられることもあるというが、ヴルブナにそこまでの器はない。素質や才能というものも、恵まれなかった者にはどうしょうもない。ときに死ぬほどの努力や意志の力で変えられることもあるかもしれないが、それも限界がある。
　マヌエルは気の毒そうな顔をしてみせた。半分は本心であるが、半分は嗜虐心からである。