紅蓮の島にて、永久の夢

名花二輪 七

　ねちねちと執念深くピロテスはアレクサンダーを追い詰めていく。
「ほれ、アレクサンダー、ここはおまえから先に名を名乗れ」
　鞭先でアレクサンダーの股間をかろうじてまもっている布をたくしあげた。
「よ、よせっ……！」
　執拗な責めに、アレクサンダーは目を伏せたまま口をひらいた。
「ア、アレクサンダー＝フォン＝モール……」
　そっけなく告げた彼を笑いながら、ピロテスはつづける。
「それだけではないじゃろう？　栄えある帝国陸軍少佐で、伯爵様じゃ」
　ぴくり、とシャルロットがふるえ、蜂蜜をとろかしたような金髪が揺れる。
「さ、今度はシャルロット、おまえが名乗れ。ほれ、アレクサンダーを見て、ちゃんと言うのじゃぞ。まったく良家の娘だというのに躾がなっておらぬのぅ」
「シャ、シャルロット＝ド＝シャミーユ……です……」
「これもそっけないのぅ。父親は銀行頭取で男爵様じゃ。若き伯爵に男爵令嬢。似合いの二人じゃな」
　たがいの身分を聞いて、たがいにいっそうの羞恥をつのらせ、身もだえするように二人が震えている様子は痛ましくも美しく、それでいてにおいたつような被虐美にあふれている。
　さらにシャルロットの身体から文字どおり香りたつ芳香。アレクサンダーの存在がいっそう香を強くする効果を果たしているのかもしれない。ピロテスもアレシアも男たちも、その麻薬のような香に酔いしれた。
「役得だな」
　はしゃいだ声が男たちのなかから漏れ聞こえてくる。
　この館仕えの男たちは基本的に妻帯を禁じられている。妻も恋人も持てない彼らは、せいぜい島の場末の売春宿で年増娼婦を買うぐらいしかできず、そんな彼ら下級兵士たちにとって、この目の前の麗人二人のあられもない姿は、まさに役得であり眼福なのだろう。
「ほれ、どうしたおまえたち？　ちゃんと互いの姿を見るがよい。ほほほほ。そんなにお互い恥ずかしがっていてどうするのじゃ？　これからもっと恥ずかしいことをしてもらうことになるのじゃぞ」