紅蓮の島にて、永久の夢

名花二輪 四

　激しく抵抗したが、結局はさからえることもなく、私兵たちの好奇心まるだしの目のまえで、マヌエルによって強引に身にまとわされた。
　マヌエルの器用な指先がたくみに紐を結びあげたとき、自分の心臓を締めつけられたような気がした。
「ふむ。この姿も写真に撮って、おまえの妻や親戚に送ってやりたいのぅ」
　ぞっとした。
「や、止めてくれ！」　
　今更だとは思うが、やはりそのことを想像すると全身が震え、この卑劣漢を喜ばせるだけだとわかってはいても、言わずにいられない。
「そ、それだけは止めてくれ！」
「ほほほほ。それほどこの腰布が嫌かぇ？　嫌なら、脱がしてやろう」
　ピロテスの指先が右腰の結び目に届き、アレクサンダーは狼狽した。
「あっ、よ、よせ！」
　ホホホホホホ……。
　どこか狂気じみた笑い声が地下牢に響く。
「それにしても……、」
　ひとしきり笑い終えると、あらためてピロテスは囚われのアレクサンダーを眺め、満足そうに笑う。
　奴隷生活で幾分痩せはしたものの、胸といい、腹といい鍛え抜かれた肉体は艶と張りをうしなわず、吊り上げられた腕や、足にからむ亜麻色の縄がひどく痛々しげでいて官能的である。
　日に当たることがほとんどない監禁生活で白さを増したアレクサンダーの肌は、地下の薄闇に光を放つようである。ピロテスは目を細めた。
「こうして見れば見るほど、おまえは美しいのぅ。妾も今まで数多あまたの美男美女を見てきたが、おまえほど美しい男……といっていいかどうかわからぬが、おまえほど人を惹きつける生き物を見たことがない。本当に罪な存在じゃ」
「つまらんごたくなどどうでもいい！　卑怯者め！」
　激昂するアレクサンダーを面白そうに見て、ピロテスは歌うように言う。
「この素晴らしい名花に、もう一輪花を並べて見たいのぅ。準備はできたかぇ？」