紅蓮の島にて、永久の夢

悪党たちの城 三

　理由はシャルロットをあらためて見て理解できた。
（生きたフランス人形じゃな）
　目の前に連れてこられたシャルロットは、腰まである栗色の髪を波打たせて、青い瞳に怯えと、名家の令嬢らしい誇りをひそめ、必死にピロテスを睨みつけてきた。
　館であたえられた純白の衣に身を包んだシャルロットは、祭殿の生贄にされた哀れな子羊そのものであるが、その天性の美貌と気品は消えていない。どこかアレクサンダーと似た気質を思わせ、これは確かに手こずりそうだとピロテスは内心うんざりしたが、同時に調教師としての闘志もわく。
「まったく困った我がまま娘ですよ」
　口調は忌々しげだが、アレシアのシャルロットを見る目つきに奇妙な潤いがあることにピロテスは気づいた。
（こやつ、奴隷に惚れておるのではないか）
　この館に集う者は性の逸脱者がおおい。
　アレシアのように男の肉体に生まれ落ちながら女の性を秘め、なおかつ女に惹かれるという奇妙きわまりない性癖をもっている者もいるのだ。そしてアレシアは今シャルロットに惹かれているようだ。だからこそ、厳しい調教ができないのだろう。
「見た目に反して、かなりじゃじゃ馬のようじゃな」
　ピロテスが顎をつかむと、シャルロットは驚くほどはっきりと睨みつけ、叫んだ。
「触らないで！」
　細い白い手がピロテスの手を振りはらう。
　名家の令嬢らしく相当気位が高いようだ。
（ふうむ。加虐趣味の客に受けそうじゃな）
　気性の激しい誇りたかい令嬢を好む男は多い。被虐趣味の客にも受けるかもしれないが、果たして彼女に加虐の技術を仕込めるか。身体付きがやや華奢すぎて、品位はあるが威厳には乏しい。
　その点、アレクサンダーには品位も威厳も備えている……と、ついピロテスはアレクサンダーを引き合いに出して考えていた。
　アレクサンダーを見てからの日々は、彼のことを考えないことがないピロテスであるが、そのことを自覚していなかった。
「あまり手こずらせるのなら、この姫君を一度厳しく躾ねばならぬなぁ」
　ピロテスの冷ややかな言葉に、シャルロットは一瞬おびえた顔になって身をすくめた。