紅蓮の島にて、永久の夢

宝玉遊戯 二

「そんなことを言いながら、期待しておるのであろう。おまえの身体は覚えが早いからのぅ。すでに欲しくてたまらぬのであろうが。安心せい、ちゃんと香油で濡らしてやる」
　言うや、ピロテスは黒玻璃の小瓶を二本の指でつまむようにして高く持ち上げ、中身の液体を七色の玉石にしたたらせる。
　きらきらとしたたる液体からは、ほのかに雅な香がする。麝香ムスクだろう。
　嬉々として玉石に妖しい香油をしたたらせるピロテスの姿は、数百年の眠りからさめた妖怪としか思えないほどの不気味さだ。
「ほほほほ。そう怯えることはない。これでな、おまえを良い気持ちにさせてやるのじゃぞ」
「く、くるな！　くるな！」
　これからされることのあまりのおぞましさに、アレクサンダーは幼児のように感情をむきだしにして叫んでいた。
「これ、逆らうでない。逆らうのならば、どうなるかわかっておるのか？」
　写真のことを言っているのだ。
　抗うのならば、ピロテスはアレクサンダーの恥ずかしい写真を知人にばらまくというのだ。卑劣な脅しにアレクサンダーは唇を噛んだ。
「さ、聞き分けて、ほれ、そこに四つん這いになるがよい」
　それでもアレクサンダーは唯々諾々としたがうことなどできず、相変わらずガウンで我が身を守るようにして、必死にピロテスを青い瞳で睨みつけた。しかし……、
（ふむ）
　その仕草には、以前とちがってどこか弱々しいしいというか、もしくは嫋々としたものが感じられ、ピロテスをやや満足させた。
（まったく強情な奴じゃな。だが、色気が増してきたような）
　誇りたかい軍人貴族の捨て身の抗議を見ているうちに、ピロテスの胸にいっそうの嗜虐の欲望がたぎる。
「それほど嫌か。……しょうがないのぅ。……こ奴は、やはり奴隷には向かぬのかもしれるな。マヌエル、どうする？」
　有能で忠実な臣下であるマヌエルは、咄嗟に主の思惑を読みとった。