紅蓮の島にて、永久の夢

文月 沙織

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散らされて 二

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 床に、またもちぎれた花びらのように衣が落ちた瞬間、ヒュー、という口笛を吹くような声がハサピスの口からもれる。
 つい先ほどあれほど身体を密着させ、濃密な写真を撮られた間柄だというのに、アレクサンダーの肉体は見る者をけっして飽かせない。
 眩しいほどに美しいのだ。
 このような状況下にあって、奴隷の身に堕とされても、家柄や育ちからうかがえる高貴さ気高さ、清潔感、軍人として鍛えてきただけあって張りつめた肌や筋肉、若く青春のみずみずしさをたたえた肌、それでいて、やはり抑えきれない羞恥がしのばせる初々しさ。
 いつまでも見ていたいと願うような、至高の芸術作品を前にしたときの感動を、ハサピスのような下卑た男や、控えている兵士たちにももたらすのである。
「どうした? 早うはじめぬか? いくらおまえでも自分でしたことはあるじゃろう? ほれ、結婚前に婚約者を思ってしたようにしてみるがよい」
 激しい侮辱の言葉はアレクサンダーの神経を切りきざむ。
 そして、ふと思ってしまう。
 アディーレの姿を想像して、自涜の行為をしたことが、果たしてあったろうか。いや、アディーレにかぎらず、女性を思ってみずからをなぐさめるようなことが今まであったろうか。
 一度もなかったことに、こんなときだがアレクサンダーは気づいた。
 そもそも、自制心が人一倍強い性格だったせいか、アレクサンダーはいてもたってもいられない性衝動というのを、学生時代にも、思春期のときでさえも経験したことがない。人より性欲が少ないのだと思っていた。
 成人してからも自らの肉体を触るなど、滅多になかった。どこかでそういったことに禁忌と忌避の気持ちがあったからかもしれない。
 その、初心で純粋な身体を、今、こうして卑しい連中の前で剥き出しにされ、自らを汚す行為を強制されているのだ。
 アレクサンダーは気を抜くと泣きくずれそうになるを、必死におさえ、指先を若い茎に向けた。
「そこで止まるでない。ほれ、手を動かすのじゃ。ここで妾らが見ている前で、いつも自分でしているようにしてみせろ。必要なら、おまえの婚約者……妻の写真をもってこさせようかぇ? ほほほほほ」
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