紅蓮の島にて、永久の夢

文月 沙織

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落花検分 六

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 アレクサンダーはここでまた息を飲んだ。
 彼の手には、刃物が握られているのだ。
 その銀色の刃はアディーレの腰あたりに向けられている。車に乗ろうとしているアディーレはまったく気づかない。
(アディーレ、危ない! 逃げろ!)
 だが、刃先は嗤うように空を切り、ヴルブナのポケットにしまいこまれた。
 振り向いたアディーレにヴルブナは何か話しかけている。おそらく、家まで送ろとかなにか言っているのだろう。あくまでも礼儀正しそうに。
 うまく言いくるめるようにしてヴルブナは車に乗り込んだ。
 見ていてアレクサンダーは気が気でない。すでに終わっている時間のことであるはずなのに、今現実に目の前で起こっているように思えるのは仕方ない。
 最後にヴルブナは不敵な笑みをカメラに向けた。アレクサンダーに向かっているようだ。この映像をアレクサンダーが見ることを知っているにちがいない。アレクサンダーは幻影でしかないヴルブナを睨み返していた。
 そこで画面は真っ黒になり、終わった。
 悪趣味なサスペンス映画のようだ。
「どうですか? 感想は?」
「よくも……」
 よくもこんな手の込んだ馬鹿々々しいことができるな、と怒鳴ってやりたい。
 つまり、彼らはこう言いたいのだ。
 おまえはすでに死んだことになっており、残された妻は、この先、自分たちの意図でどうにでもなるのだと。
 そう言いたいのだろう、とアレクサンダーが思ったことを口早に告げると、マヌエルは笑ってみせた。
「察しがよいですね。そうです。我々はそれぐらいのことを軽くやってしまうのですよ。いえ、殿下の御力をもってすればできないことは何ひとつない。下手をすれば、あなたの大事な奥様は今にも攫われて、あなた同様、この館で勤めてもらうことになるかもしれないし、明日にでも手っ取り早くキティ・サロンで客を取ることになるかもしれない。あのヴルブナという男は喜んで買いに行くでしょうよ」
「そんなことまで……」
 遠い祖国の事情をすべて知りぬき、すべて支配しているのだ、この連中は。
「やめろ! アディーレには手を出すな! 絶対に手を出すな!」
 悔しいが、今の状況では、アレクサンダーはそう言うことしかできない。  
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