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落花検分 五

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 アレクサンダーは息を飲んだ。そこに見たのは、彼の知る光景だった。
 アレクサンダーの実家であり屋敷が見え、近くの公園を歩く人影が無造作に映りだされ、つぎには教会が見えた。
 アレクサンダーとアディーレの結婚式が行われた教会である。神の前で交わした愛の誓い、華やかな貴顕紳士、淑女の群れ、透明色に光ったグラスとシャンペン、深緑樹の枝のはざまからこぼれたエメラルドの光彩、すべては夢の世界のことように思い出されたが、あの日のことが夢でない証拠に、映し出された建物にはところどころ破損も見られる。
 さらに見えてきたのは喪服の一団である。
 その黒い人群れのなかに、一輪の黒百合の花のようにたたずむのは……、
(アディーレ……!)
 あの日、純白の花嫁衣裳に身をつつんだ若妻は、今は未亡人として漆黒の喪服と薄絹の黒いヴェールで顔を隠し、横顔に悲しみをみなぎらせている。
 次に映し出されたのは墓であり、墓碑にはアレクサンダーの名が刻まれている。
 アレクサンダーは自分の葬式を見せられているのだ。
(誰が、これを映したのだ……)
 真っ先に頭に浮かんだのはそのことだった。だが、喪服の集団のなかにヴルブナの姿を見た瞬間、激しい怒りに襲われてなにも考えられなくなった。
 彼の近くにはダールケ大佐もいる。二人とも、さも悲し気な顔をつくって、上官と部下を失ったことを嘆いている。
(白々しい!)
 さらに従弟のカールや叔父のトマスが映し出されると、アレクサンダーの心は別の意味で乱れた。
 カールの顔にはまぎれもなく悲壮感がただよっている。
(カール、私は生きている! ここにいるのだ!)
 そう叫びたいが、叫んだところで白幕に映し出される人々の耳には届かない。
 やがて弔いは終わり、喪主の未亡人であるアディーレは一人送迎の車に乗りこもうとしている。そこに近づいたのはヴルブナだった。
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