70 / 213
闇の国 三
しおりを挟む
「だ、だったら、さっさと私を殺せばいいではないか? そうだ、どうしても私を、その白蓮にするというのなら、死んでやる!」
自殺はアレクサンダーの世界の価値観では禁忌とされているが、それでもする者はいるし、まして軍人なら、名誉を守るために死ぬのは仕方ない。
帝国軍人であり貴族である自分が、白蓮という高級娼婦、男娼なぞに堕ちることがあれば、それは祖国の威光に泥を塗ることになる。それならば、いっそ死ぬ方がましかもしれない。
自殺、という最終手段がアレクサンダーの頭に閃いた。
「何を言っているのです」
ここで初めてマヌエルは笑った。冷笑というべきか。
無表情であった彼が初めて見せた感情だが、それはひどく冷ややかなものだったのだ。
「そんなことになれば、それこそあなただけではすみませんよ。家名も、あなたの身内も、あなたの……大事な婚約者、いえ新妻もただではすまないのですよ」
アレクサンダーは硬直した。
マヌエルはアデーレのことまで知っているのだ。
彼の唇の両端がかすかに上げる。
「この‶国〟をあまり甘く見ない方が良いですよ。あなたのことはすべて調べ尽くしているのです。もしあなたが自殺などしたら、それこそあなたの大事な家名もあなた自身の名誉も地に落ちることになるのですよ。あなたの新妻もただではすみません」
「貴様、アディーレに何をするつもりだ?」
「それも殿下やピロテス様がお決めになることです。ただ、これだけは言っておきます」
そこでマヌエルは一呼吸おいた。
「逃げることはできません。もし、仮にこの館から逃げたところで、かならずつかまります。殿下が本気でお怒りになれば、あなたの親戚も、新妻もひどい目にあわされますよ。あなたが逃げれば、あなたの新妻がさらわれ、あなたの代わりをさせられることになるかもしれない」
自殺はアレクサンダーの世界の価値観では禁忌とされているが、それでもする者はいるし、まして軍人なら、名誉を守るために死ぬのは仕方ない。
帝国軍人であり貴族である自分が、白蓮という高級娼婦、男娼なぞに堕ちることがあれば、それは祖国の威光に泥を塗ることになる。それならば、いっそ死ぬ方がましかもしれない。
自殺、という最終手段がアレクサンダーの頭に閃いた。
「何を言っているのです」
ここで初めてマヌエルは笑った。冷笑というべきか。
無表情であった彼が初めて見せた感情だが、それはひどく冷ややかなものだったのだ。
「そんなことになれば、それこそあなただけではすみませんよ。家名も、あなたの身内も、あなたの……大事な婚約者、いえ新妻もただではすまないのですよ」
アレクサンダーは硬直した。
マヌエルはアデーレのことまで知っているのだ。
彼の唇の両端がかすかに上げる。
「この‶国〟をあまり甘く見ない方が良いですよ。あなたのことはすべて調べ尽くしているのです。もしあなたが自殺などしたら、それこそあなたの大事な家名もあなた自身の名誉も地に落ちることになるのですよ。あなたの新妻もただではすみません」
「貴様、アディーレに何をするつもりだ?」
「それも殿下やピロテス様がお決めになることです。ただ、これだけは言っておきます」
そこでマヌエルは一呼吸おいた。
「逃げることはできません。もし、仮にこの館から逃げたところで、かならずつかまります。殿下が本気でお怒りになれば、あなたの親戚も、新妻もひどい目にあわされますよ。あなたが逃げれば、あなたの新妻がさらわれ、あなたの代わりをさせられることになるかもしれない」
1
お気に入りに追加
142
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

飼われる側って案外良いらしい。
なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。
なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。
「まあ何も変わらない、はず…」
ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。
ほんとに。ほんとうに。
紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22)
ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。
変化を嫌い、現状維持を好む。
タルア=ミース(347)
職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。
最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?



兄たちが弟を可愛がりすぎです~こんなに大きくなりました~
クロユキ
BL
ベルスタ王国に第五王子として転生した坂田春人は第五ウィル王子として城での生活をしていた。
いつものようにメイドのマリアに足のマッサージをして貰い、いつものように寝たはずなのに……目が覚めたら大きく成っていた。
本編の兄たちのお話しが違いますが、短編集として読んで下さい。
誤字に脱字が多い作品ですが、読んで貰えたら嬉しいです。

見ぃつけた。
茉莉花 香乃
BL
小学生の時、意地悪されて転校した。高校一年生の途中までは穏やかな生活だったのに、全寮制の学校に転入しなければならなくなった。そこで、出会ったのは…
他サイトにも公開しています

紹介なんてされたくありません!
mahiro
BL
普通ならば「家族に紹介したい」と言われたら、嬉しいものなのだと思う。
けれど僕は男で目の前で平然と言ってのけたこの人物も男なわけで。
断りの言葉を言いかけた瞬間、来客を知らせるインターフォンが鳴り響き……?

姫を拐ったはずが勇者を拐ってしまった魔王
ミクリ21
BL
姫が拐われた!
……と思って慌てた皆は、姫が無事なのをみて安心する。
しかし、魔王は確かに誰かを拐っていった。
誰が拐われたのかを調べる皆。
一方魔王は?
「姫じゃなくて勇者なんだが」
「え?」
姫を拐ったはずが、勇者を拐ったのだった!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる