紅蓮の島にて、永久の夢

文月 沙織

文字の大きさ
上 下
60 / 213

虹の間 九

しおりを挟む
「おまえの身体は……、今まで見たどんな奴隷……、いや、奴隷でなくとも、すべてのものと比べても変わっておる」
 黒い女神の顔には奇妙な驚愕と満足が浮かんでいる。
「わらわは生まれつきのふたなりや宦官の身体も見たことがあるし、西洋医学によって去勢されたり、手術で肉体を改造したものも見たことがあるが、そのどれともおまえの身体は一致しておらぬな。この館でもおまえのような身体は見たことがない」
 珍種のなかでもさらに新種の花を見たようにピロテスが感嘆した。
「まぁ、ある種のヘルマフロディトスじゃな。おまえは、ナイアスの泉に落ちてしまったらしい」
 ヘルマフロディトスとは神話につたえられる両性具有者を意味し、ナイアスとは妖精の種族だが、彼らの泉の水を浴びると病気になったり気が狂ったり、同性愛者になったり両性具有になるという伝説がある。
 かくいうピロテス自身もそのナイアスの泉に溺れたものだということは、自覚していないようだ。
「まぁ、そのような顔をするでない。おまえはまだわからぬが、ここでは、こういう身体であることがおまえにとって強味になるのじゃぞ」
 その言葉はアレクサンダーの耳にはまったく聞こえず、ただこの気の遠くなるような恥辱に耐えるしかなかった。
 少しでも脚を閉じようと努力すれば、背後のマヌエルがお仕置きとばかり、いっそう力を入れて脚を開かせ、そこに空気と光を感じてしまう。
 はぁ……!
 いくら感情を押し殺そうとしても頬は燃えるがごとく熱くなり、全身に無念の汗が浮くのを感じる。
 アレクサンダーにとっては過酷な時間がのろのろと過ぎるのを、ただ待つしかない。
「しかし、まぁ……これは上玉のなかの上玉じゃ。さぞ殿下もよろこばれることじゃろう」
 そこでまたピロテスが扇の先をアレクサンダーの、もっとも触れてほしくない箇所に押しつけてくる。
「うう……」
 みずからがたてる歯軋りの音が響きそうだった。
 アレクサンダーは辛さに背を反らす。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

R指定

ヤミイ
BL
ハードです。

その捕虜は牢屋から離れたくない

さいはて旅行社
BL
敵国の牢獄看守や軍人たちが大好きなのは、鍛え上げられた筋肉だった。 というわけで、剣や体術の訓練なんか大嫌いな魔導士で細身の主人公は、同僚の脳筋騎士たちとは違い、敵国の捕虜となっても平穏無事な牢屋生活を満喫するのであった。

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた

翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」 そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。 チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

弟が生まれて両親に売られたけど、売られた先で溺愛されました

にがり
BL
貴族の家に生まれたが、弟が生まれたことによって両親に売られた少年が、自分を溺愛している人と出会う話です

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集

あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。 こちらの短編集は 絶対支配な攻めが、 快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす 1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。 不定期更新ですが、 1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 書きかけの長編が止まってますが、 短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。 よろしくお願いします!

処理中です...