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虹の間 六

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 着ているものを剥ぎとられているだけだが、それが刃でえぐられるよりも苦痛に感じる。いや、いっそ刃物か銃で肉体を損傷された方がまだましだったかもしれない。
 最後まであがきつづけたが、三対一ではかなわず、アレクサンダーの肌はすべてあわらになっていく。
「ほう……」
 感心したようにピロテスが扇を一振りした。
 アレクサンダーの身体は……。
 おそらくはあまたの男女の身体を見てきたピロテスでさえ目を奪うほどのものであったようだ。
 顔や手は、軍人だけあって日焼けしないわけにはいかなかったはずだが、芯から色白らしく、品のよいアイボリーの色である。剥き出しにされた胸や胴は、ほとんど日光を受けたことがないような、生まれたままの色を残している。
「まぁ、なんて白いのだろうね、おまえの肌は……」
 ピロテスが希少な名花を観賞するように目をほそめ、手を伸ばしてきた。
「胸も、腹も……どんな女よりも白く、まるで……ぬめるようじゃな。エーゲの深海にねむる真珠のようではないか……色だけではない、張りがあって、それでいて柔らかみもある。これは、本当の上玉じゃな」
 最後の言葉にはやや下品な揶揄が感じられた。
「さ、触るな!」
 自分の肌を舐めまわすように這いまわるピロテスの掌に我慢ができず、アレクサンダーは叫んでいた。
「本当に生きも良いのう」
 ほほほほほほ。
「そして……、こっちは」
 ピロテスの濃く紅を塗った朱唇から、毒のような嘲笑があふれる。
 アレクサンダーは今度こそ観念して、目を閉じた。それでも下腹に力をこめてゆるがぬように努め、再度歯をくいしばる。

 ピロテスは、ねばつく視線を虜囚の下肢に向け、唇を開く。その奥に牙が光っているようだ。
 そして、ピロテスはのけぞり、全身で笑いだす。
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