紅蓮の島にて、永久の夢

虹の間 五

「ふん。人のことなどかまっておる暇はないぞ。さ、はよう脱いで、わらわのまえですべて見せるがよい」
　その目にはあきらかに好色な悦びがかがやいている。扇でかくした口元も笑っているにちがいない。
　アレクサンダーはぞっとした。この異常な男のまえに身体を晒して、みずからの秘密を暴かれるなど死んでもご免だった。
　だが……、
「なにをする！」
　マヌエルが見た目に相違して強い力でアレクサンダーの右腕をつかんできたのだ。
「調教の手始めです。今からあなたの着ているものを脱がせます」
　場違いなほど事務的、あるいは機械的な言い方で、およそ感情もなければ、欲望や攻撃の気配もない。それだけに冷酷で、残酷にも感じられ態度である。
「は、はなせ！」
　逃れようとしたが、マヌエルの動きは驚くほどに敏捷で、取られた腕をひねりあげられて、動けなくなってしまう。疲労しているとはいえ、軍人として鍛えられてきたアレクサンダーの抵抗を封じることができるとは、間違いなく彼は格闘技の天才的達人である。
　アレクサンダーは不甲斐なさに歯噛みしたが、いつの間にか入室してきた二人の召使がマヌエルに加勢し、身動きできなくなってしまう。
「よ、よせ！　やめろ！　はなせ、無礼者！」
　それでも必死で、死に物狂いでアレクサンダー抗った。
　娼館での、あの悪夢のような記憶がよぎる。
　夢現ゆめうつつのなか、上官と部下、そして娼婦たちの目の前で下肢をさらけだされ、もてあそばれたおぞましい体験。
　あれは夢だったのだ、悪い夢を見たのだと自分に言い聞かせてきたが、あのとき肌に触れてきた熱っぽい手の感触が、今なまなましくよみがえる。
　三人がかりで抑えつけられ、アレクサンダーの肌はあらわになっていく。
　アレクサンダーは歯を食いしばって、死んでも哀れな悲鳴をあげるまいと努力した。