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背徳の洗礼 七

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 果物を持っている器も、水差しや杯も黄金で8の字型の古代模様がほどこされており、骨董的価値はかなりたかそうだ。この館そのものが文化遺産だろう。だが、そこで、このような人権侵害が平然と行われているのだ。
 誰も食欲などなく、葬式場のような暗い静寂のなかで、人生でもっとも味気ない食事は終わり、一行は別室へと案内されることになった。

 次にアレクサンダーたちが長い廊下を歩いて連れていかれた先は、大広間のような場所だった。吹き抜けであり、すでに空には星がきらめいている。
 こんなときでなければ、この島の自然の美しさに感動したかもしれないが、今のアレクサンダーにとっては、館の素晴らしさも夜空の美しさもまったく意味がない。
 広々とした石室の最奥、中央には、蝋燭の灯に銀色に映える紗が張りめぐらされていた。
(まるで映画のセットのようだな)
 アレクサンダーは内心で嗤った。
「頭を垂れろ、殿下の御前じゃぞ!」
 ソロモンの声に、しぶしぶと人質たちは頭を下げる。貴顕の生まれではあっても、誰しもこの島の流儀はよくわからず、ぎこちない動作となった。
「レウキス殿下、御成りー!」
 今度こそ、アレクサンダーは本当に笑いたくなった。
(馬鹿々々しい茶番だ)
 だが、そんな侮蔑の感情には、多少の強がりも入っている。
 紗幕が割れた瞬間、ほのかにただよってきたかぐわしい香は白檀か。
 アレクサンダーは目線を上げて、前方の〝殿下〟に目をやった。
 レキウス。それが知りたかった敵の名なのだ。
 最初にアレクサンダーの目に入ったのは、サンダル履きの足だった。組んでいるようで、片足が浮いている。その足首で銀のアンクレットが妖しい光を投げかける。
 身につけているものは、やはりこの島の風俗らしい長衣のようで、漆黒の絹に裾に銀糸で四花弁の紋様がほどこされている。 
 ソロモンにばれないように、アレクサンダーはかすかに目線を上げた。
 〝殿下〟の右手には金の錫杖があり、膝の上の左手も宝玉でかざられている。衣の胸あたりは、やはり銀糸で微細な紋様がほどこされている。
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