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奴隷市場 七

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 下位の兵士やひらの警察官に見られるより、おなじ階級社会の男性にこんな姿を見られるほうが辛いはず。まさしく彼女にとって死にもまさる屈辱と恥辱を味わうことになる。そんな生き恥をさらされるぐらいなら、強姦された方がましかもしれない。
「だが、身体は傷つけないという約束は守った」
 パパスの言い分にアレクサンダーは言い返さずにいられない。
「心には一生消えない傷になるぞ」
 貴族で大臣の妻だというのなら、ハサピスの言うとおり、本当に二度と人前に出られないだろう。
 貴族にとって命よりも大事なのは名誉である。その彼女の名誉は地に落ちたも同然となる。生きて祖国に戻れたとしても、精神を病むか、自殺してもおかしくない。今までどおりの生活をおくることは、どれほど神経の強靭な女性でも無理だろう。
「ふん。いまだに紳士気どりか。偉そうにいうなよ、おまえだっていつああなるかわからないぜ。ほら、行けよ」
 ハサピスが憎々しげに告げ、アレクサンダーの肩を叩くように押す。
 アレクサンダーは唇を噛みしめ、前方を行く他の奴隷たちの後ろにつづくしかない。
 船からは縄梯子が下ろされ、海上の小舟に奴隷たちはおりていく。女性たちはひどく怯え、すすり泣きながら震える足で縄梯子をつたっていく。
 アレクサンダーは自分の番がきて、縄梯子を下りていった。どうにか逃げ出す隙はないかと思ったが、下に見えるのはちっぽけな船と大海原のみだ。今は無理だった。
 そのとき、船体に描かれた文字が見えた。
 文字は古代ギリシャ語だ。
 タルタロスーー。そう読める。
 アレクサンダーの知識と記憶がただしければ、たしか神話に出てくる冥界のことであり、その世界を統べる神の名でもあったはず。
(まさに私たちは冥界に放りこまれていたということか)
 アレクサンダーは皮肉に考えた。
 そして、この先でもまた、新たな冥界、地獄がアレクサンダーを待ち受けているのだ。  

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