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奴隷市場 一
しおりを挟む「囚人三三番、出ろ」
それが自分に与えられた〝名前〟だと気づいて、アレクサンダーは怒りを覚えた。
だが、さすがにここで抗っても体力を消耗するだけだと悟り、しぶしぶ寝台から立ちあがる。
一応、今朝、衣服は届けられていた。質素ではあるが、白いシャツは血に汚れた寝間着よりましだ。
あれから再び麻酔を打たれ、無理やり寝かされているうちに腕の傷は治療を受けており、痛みはするが今のところ支障はない。だが足を進めた瞬間、身体がふらつきそうになった。長時間の睡眠は彼から体力をかなり奪っていたのだ。
ドアのところで自分をむかえる警備兵は二人で、二人とも色が黒い。外国人だと一目で知れる。
一人はかなり大柄で、背はアレクサンダーよりやや高いぐらいだが、幅は倍ありそうだ。もう一人の方は彼にくらべると中肉中背ぐらいか。だが、その男の自分を見る目は動物園で珍獣でも見るようなもので、アレクサンダーは不愉快だった。しかも、好奇心に、好色な卑しさも感じられ、ますます不快になる。
「島に着いた。今から下船するぞ」
大柄な方が告げた。訛りがあるが英語で、彼らはある程度欧州文化に慣れているようで、着ている制服らしき服も、アレクサンダーの母国の警察官の制服と似ている。夏服だが。
「歩けるか?」
大柄な方の警備兵が訊いた。
「……歩ける」
弱いところは見せたくない。アレクサンダーはどうにか普通に動けるように見せた。
「ここは、どこだ?」
「島だ。それしか言えない」
相手の口調は意外とやわらかで、見かけ以上に知性はあるようだ。
大柄な男が前を行き、もう一人がアレクサンダーの後ろに立つ。
「甲板へ出るぞ」
廊下を先導するように歩く男の腰にある短銃にアレクサンダーは目をつける。
(どうにかして、あれを手にいれられたら……)
だが、今は逃げ出すのは無理なことはアレクサンダーも理解できた。こうして歩くだけでも精いっぱいなのだ。
少し歩調が遅れ、背後の男との距離がちぢまった。そのとき、ざらつくような声がアレクサンダーの鼓膜に響いてきた。
「どうだい、具合は? 〝お嬢ちゃん〟。新しい身体は気に入ったかよ?」
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