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ヒポクラテスの欺瞞 三
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とはいうものの、こういう船に乗る客は、けっしてまともな人間ではなく、金はあるが、法律の裏をかいくぐって生きているような者ばかりで、やはり彼らもまた闇の世界の住人である。
この船は海賊船であり奴隷船でもあるのだ。
「しかし……この患者は興味ぶかいな」
医師は感慨ぶかげにため息を吐いた。
ルフ医師は、いつになくカルテを熱心に見ている。エウリュアレは医師が受け持った患者のカルテを見たことはない。見せてもらえないのだ。
最初に厳しく言われた。見ない方が後々安心できると。
深く意味を追求するのはやめておいた。
「ええ。貴族で軍人で……、しかもあの容姿ですものね」
「ふむ。それも、そうだが……」
カルテを凝視しながら、医師の黒い目は紙面に書かれた文字ではなく、なにやら別のものを追っているようだ。
カルテを持つ男の手が、あの美しい肉体にメスを入れたのかと思うと、エウリュアレは恐ろしいような気がする。エウリュアレは、あの患者にほどこされた手術の内容を知っていた。
(強制的に性をゆがめるなんて……。神がお許しになるわけないわ)
それはエウリュアレの神であるが、やはり禁忌の領域に足を踏み入れる行為だとエウリュアレは内心憤慨する。
だが、そんな非道な行為は、恐ろしいことに今の時代、ここのみならず街の病院や施設で、いつしか毎日のように行われることになった。しかも国家の命令で。
エウリュアレ自身、今の仕事に就いてから、信じられないような恐ろしく悲しい話をいくつも聞いた。
自分たちの仕事はなんと罪深いのかと思うが、だが自分たちとて生きていかねばならないのだから、言われたことをこなし、患者たちの運命には目を瞑るしかない。
エウリュアレもまたルフ医師同様、逃れられず、この仕事に無理やり加担させられているのだ。そういう意味では病室に閉じ込められているアレクサンダーと立場はそう変わらないかもしれない。
(本当に、綺麗な男性……だったわ)
薄暗い部屋でも光りかがやいていた黄金の髪、極上のエメラルドのような瞳。痩せはしても、強靭さを思わせる肢体。エウリュアレの胸は疼く。
この船は海賊船であり奴隷船でもあるのだ。
「しかし……この患者は興味ぶかいな」
医師は感慨ぶかげにため息を吐いた。
ルフ医師は、いつになくカルテを熱心に見ている。エウリュアレは医師が受け持った患者のカルテを見たことはない。見せてもらえないのだ。
最初に厳しく言われた。見ない方が後々安心できると。
深く意味を追求するのはやめておいた。
「ええ。貴族で軍人で……、しかもあの容姿ですものね」
「ふむ。それも、そうだが……」
カルテを凝視しながら、医師の黒い目は紙面に書かれた文字ではなく、なにやら別のものを追っているようだ。
カルテを持つ男の手が、あの美しい肉体にメスを入れたのかと思うと、エウリュアレは恐ろしいような気がする。エウリュアレは、あの患者にほどこされた手術の内容を知っていた。
(強制的に性をゆがめるなんて……。神がお許しになるわけないわ)
それはエウリュアレの神であるが、やはり禁忌の領域に足を踏み入れる行為だとエウリュアレは内心憤慨する。
だが、そんな非道な行為は、恐ろしいことに今の時代、ここのみならず街の病院や施設で、いつしか毎日のように行われることになった。しかも国家の命令で。
エウリュアレ自身、今の仕事に就いてから、信じられないような恐ろしく悲しい話をいくつも聞いた。
自分たちの仕事はなんと罪深いのかと思うが、だが自分たちとて生きていかねばならないのだから、言われたことをこなし、患者たちの運命には目を瞑るしかない。
エウリュアレもまたルフ医師同様、逃れられず、この仕事に無理やり加担させられているのだ。そういう意味では病室に閉じ込められているアレクサンダーと立場はそう変わらないかもしれない。
(本当に、綺麗な男性……だったわ)
薄暗い部屋でも光りかがやいていた黄金の髪、極上のエメラルドのような瞳。痩せはしても、強靭さを思わせる肢体。エウリュアレの胸は疼く。
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