紅蓮の島にて、永久の夢

文月 沙織

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攫われた花婿 五

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「もう二日もすれば島に着くわ」
 寝ているときにかすかに聞こえた会話にもあった。
 やはりここは船なのだ。大型船であることは間違いない。
「し、島とはどこの島だ?」
「それは……あ、ご免なさい。患者とは必要以上の話をしてはいけないことになっているの」 
 相手は黒い目を伏せた。
「君は看護婦なのか?」
 とにかくどんなことでも情報が欲しく、内心の焦慮と緊張を押し隠して、アレクサンダーはなるべくおだやかな声で質問した。
「看護婦のようなものよ。ドクターの助手をしているの」
 あのときの医者らしき声の男か。
「名前は訊いてもいいか?」 
「エウリュアレよ」
 姓はあえて名乗らないようだ。どこかで聞いたような名だが、思い出せない。
 エウリュアレが敵か味方かわからないが、とにかく今は唯一の情報提供者だ。アレクサンダーは相手に詰め寄りたい気持ちをおさえた。
「私は病気か怪我をしていたのか?」
「それは……あとでドクターが説明すると思うわ。今は安静にして寝ているといいわ」
 それだけ言うと、エウリュアレはトレイを台に置いた。そのまま立ち去ろうとするエウリュアレに、アレクサンダーはあわてて取りすがった。
「用を足したいのだが」
 一瞬、エウリュアレは黒い眉をかすかにしかめた。
 怒っているというより、困惑しているようだ。翳の走ったような表情に、なぜかアレクサンダーは従弟のカールを思い出した。
「……それなら、そちらにバスルームがあるから。タオルや石鹸もあるから使ってちょうだい」
 壁と同色のカーテンにさえぎられており、そこにドアがあることに気付かなかった自分の迂闊さにアレクサンダーは内心臍を噛んだ。
 だが、この部屋にバスルールがあることには感謝した。何日寝ていたかわからないが、身体も洗いたい。
「じゃ、私はこれで。明日になったらスープをもってくるわね。今はそのミルクで我慢してちょうだい」
 カップに満たされているのはミルクのようだ。今のところまったく食欲のないアレクサンダーは何も言わなかった。
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