紅蓮の島にて、永久の夢

文月 沙織

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攫われた花婿 四

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 全身がだるい。身体のあちこちに痛みも感じるが、時間がたつにつれて、痛みは長時間横たわっていたために生じたものだと知った。
 とにかくベッドから下り、床に立った。奇妙な感覚におそわれて一瞬、眩暈を感じた。
 ふらつきながらも、どうにか自分の足で立ってみる。
 その足も裸足なのに気づく。見渡すかぎりスリッパひとつない。
(いったい、ここはどこの病院なのだ)
 仮に入院していたにしても、貴族で将校クラスというアレクサンダーの身分を考慮すれば、もっとましな部屋に入れるはずだ。まるで貧民の施療院のようだ。
 ひどく不可解な気持ちで足を動かすと、ひきつるような、ちいさな痛みを身体の中心に感じた。
 そのときアレクサンダーは一気に激しい尿意を自覚した。
 部屋を出ようとしたが、ドアが開かない。
 自分は閉じ込められているのだ。
 ぎょっとした。
 もしかしたら、自分はあのとき敵に誘拐されたのだろうか。ここは敵の根城なのか。
 そうだとすると辻褄があう。
(もしかしたら、ヴルブナは敵と通じていたのかもしれない)
 これも辻褄があう。だからこそヴルブナはアレクサンダーにあやしげな薬を注射して、攫い、敵の彼らが自分をここへ連れこむことに協力したのかもしれない。
(なんということだ! 逃げなければ!)
 そう思ったとき、突然ドアが開いた。

「あら? 目が覚めたのね」
 相手はカップを載せたトレイをもっていた。
 一瞬、看護婦かと思ったが、着ているのはごく普通の白いシャツと紺のスカートだ。肌の色がやや濃いのは、他民族の血が入っているのかもしれない。こわそうな黒髪を赤いスカーフで後ろでまとめている。若いようだが、アレクサンダーよりは年上かもしれない。
「もうすぐ島に着くから、それまでまだ横になっているといいわ」
 私服だが、口調やどことなくもの慣れた仕草から看護婦のようにも見える。だが、敵の一味かもしれない。
「こ、ここは、どこなのだ?」
「どこ、って? 海の上よ」
「なんだって!」
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