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血塗られた結婚式 一

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 結婚式の日は晴天だった。
 国中の名だたる貴族、政治家、実業家が顔をそろえ、軍の関係者も大勢顔を見せていた。
 結婚式はどうしても教会であげたいというアディーレの願望で、当節の軍の慣習にそれて、二人の結婚式は神の御前で行われることになった。
「アレク、今日一日は戦争も軍のことも考えないで。私だけを見ていてね」
「ああ、わかったよ」
 花嫁姿の新婦は、まだ少女めいていて将校の妻になるには心もとない気もするが、アレクサンダーは彼女の願いを聞き入れてやりたかった。
 この先、きっと自分は軍の仕事で忙しく、彼女に寂しい想いをさせることになるだろう。今日ぐらいは彼女の言うとおりにしてやりたい。
「やぁ、少佐素晴らしい花婿ぶりだね」
 今日は白の礼服姿のアレクサンダーを見て、招待客のひとりであるダールケ大佐が目を細める。その後ろにはヴルブナもいる。
 否応なしにアレクサンダーは先日の‶悪夢〟を思い出して背がこわばったが、顔には出さないように努めた。
(あれは夢だ……。すべて夢だったのだ)
 そう思い込んでいた。実際、夢だという可能性の方がたかいのだ。
(そうだ。夢に決まっている。あんなこと……あり得ない)
 大佐はしばらくアレクサンダーを舐めるように見ていたが、やがて別の客が挨拶に来た。
 教会の庭にそびえる菩提樹の大木が、心地よい木陰を客たちに提供してくれている。そこで自然、花嫁花婿は客の祝辞を受けるかたちとなり、このあとは屋外でそのままパーティーとなる。すでにあちこちでワインやシャンパンがふるまわれ、客たちは純白のテーブルクロスの上に並べられた料理へと群がっていく。
「やぁ、アレクサンダー=フォン=モール、久しぶりですね」
 最後に挨拶に来た男を見て、アレクサンダーは眉をひそめそうになった。
「覚えていますか? 寄宿舎でお世話になったオットー=フォン=クルーゲですよ」
「ああ、もちろん」
 苦い記憶がよみがえる。
 彼はアレクサンダーより二歳年下で、目立つ存在だった。実家が国有数の富豪で、その財力を笠にきてしたい放題だった。教師や先輩にもたてつき、つねに小馬鹿にした態度をとり、寮則違反と弱い者いじめの常習犯でもあった。
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