紅蓮の島にて、永久の夢

文月 沙織

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婚前診断 四

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「だって、マダム、見てちょうだいよ。こんな素敵な方、本当にいるのね。今までのお客様のなかには有名な役者もいたけれど、比べものにならないわ」
 マダムは苦笑した。
「さ、こちらへどうぞ。大佐がお待ちですわ」
 マダムを先頭に四人は奥の部屋へと向かった。思っていたより館は大きかった。階段を下りながら、アレクサンダーは気になったことを口にしていた。
「マダムは現在の、と言っていたが」
「ええ。代理なの」
 ステラは若い娘らしくあっさりと、だが小声で言う。
「前のマダムはスイスに逃げちゃったのよ」
 逃げたということは、反政権派だったということか。アレクサンダーは職業上、つい聞きこもうとしたが、ステラはあわてて自分で口をふさいだ。
「やだ、私ったら。言うなと言われていたのに。ごめんなさい、今のは忘れてちょうだい」
 客で、しかも少佐相手にこういう口調がゆるされるのは、やはりこういう場所柄と若い娘の持つ特権だろう。アレクサンダーは内心、苦笑しつつも追及はやめた。
「おお、来たかね、モール少佐」
 思ったより通された部屋は狭かった。だが壁際の暖炉や飾られている鹿の頭部の剥製、絵画も、なかなか金がかかっていることを誇示している。
 そして暖炉の上あたりの壁には、国民が敬愛してやまない‶総統〟の肖像画もあることが、アレクサンダーをすこし満足させる。
 いかにも高級そうな革張りのソファでくつろいでいる大佐は、グラスを片手に手招きする。軍人というよりも商人のようだ。当然のようにマダムは大佐の隣に腰かける。美しいほっそりとした、黒絹とダイヤにつつまれた身体が、大佐の豚ように太った身体のとなりに並ぶ様子は奇妙な絵のようだった。
 アレクサンダーは気がのらないまま足をすすめて彼の示した一人掛け用のソファに座った。
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