7 / 211
婚前診断 四
しおりを挟む
「だって、マダム、見てちょうだいよ。こんな素敵な方、本当にいるのね。今までのお客様のなかには有名な役者もいたけれど、比べものにならないわ」
マダムは苦笑した。
「さ、こちらへどうぞ。大佐がお待ちですわ」
マダムを先頭に四人は奥の部屋へと向かった。思っていたより館は大きかった。階段を下りながら、アレクサンダーは気になったことを口にしていた。
「マダムは現在の、と言っていたが」
「ええ。代理なの」
ステラは若い娘らしくあっさりと、だが小声で言う。
「前のマダムはスイスに逃げちゃったのよ」
逃げたということは、反政権派だったということか。アレクサンダーは職業上、つい聞きこもうとしたが、ステラはあわてて自分で口をふさいだ。
「やだ、私ったら。言うなと言われていたのに。ごめんなさい、今のは忘れてちょうだい」
客で、しかも少佐相手にこういう口調がゆるされるのは、やはりこういう場所柄と若い娘の持つ特権だろう。アレクサンダーは内心、苦笑しつつも追及はやめた。
「おお、来たかね、モール少佐」
思ったより通された部屋は狭かった。だが壁際の暖炉や飾られている鹿の頭部の剥製、絵画も、なかなか金がかかっていることを誇示している。
そして暖炉の上あたりの壁には、国民が敬愛してやまない‶総統〟の肖像画もあることが、アレクサンダーをすこし満足させる。
いかにも高級そうな革張りのソファでくつろいでいる大佐は、グラスを片手に手招きする。軍人というよりも商人のようだ。当然のようにマダムは大佐の隣に腰かける。美しいほっそりとした、黒絹とダイヤにつつまれた身体が、大佐の豚ように太った身体のとなりに並ぶ様子は奇妙な絵のようだった。
アレクサンダーは気がのらないまま足をすすめて彼の示した一人掛け用のソファに座った。
マダムは苦笑した。
「さ、こちらへどうぞ。大佐がお待ちですわ」
マダムを先頭に四人は奥の部屋へと向かった。思っていたより館は大きかった。階段を下りながら、アレクサンダーは気になったことを口にしていた。
「マダムは現在の、と言っていたが」
「ええ。代理なの」
ステラは若い娘らしくあっさりと、だが小声で言う。
「前のマダムはスイスに逃げちゃったのよ」
逃げたということは、反政権派だったということか。アレクサンダーは職業上、つい聞きこもうとしたが、ステラはあわてて自分で口をふさいだ。
「やだ、私ったら。言うなと言われていたのに。ごめんなさい、今のは忘れてちょうだい」
客で、しかも少佐相手にこういう口調がゆるされるのは、やはりこういう場所柄と若い娘の持つ特権だろう。アレクサンダーは内心、苦笑しつつも追及はやめた。
「おお、来たかね、モール少佐」
思ったより通された部屋は狭かった。だが壁際の暖炉や飾られている鹿の頭部の剥製、絵画も、なかなか金がかかっていることを誇示している。
そして暖炉の上あたりの壁には、国民が敬愛してやまない‶総統〟の肖像画もあることが、アレクサンダーをすこし満足させる。
いかにも高級そうな革張りのソファでくつろいでいる大佐は、グラスを片手に手招きする。軍人というよりも商人のようだ。当然のようにマダムは大佐の隣に腰かける。美しいほっそりとした、黒絹とダイヤにつつまれた身体が、大佐の豚ように太った身体のとなりに並ぶ様子は奇妙な絵のようだった。
アレクサンダーは気がのらないまま足をすすめて彼の示した一人掛け用のソファに座った。
0
お気に入りに追加
142
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた
翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」
そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。
チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?
名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。
そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________
※
・非王道気味
・固定カプ予定は無い
・悲しい過去🐜
・話の流れが遅い
・作者が話の進行悩み過ぎてる
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。
そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる