4 / 215
婚前診断 一
しおりを挟む
裁判所の役員や公務員たちが自分のために端に寄るのを、まったく気にもとめず、まるで彼らなど存在しないかのようにアレクサンダーは歩を進める。
「最近、裁判が増えましたね。今日の被告はホモの坊主ですよ。見習いの修道士に手を出したとか。こういう奴らが一掃されれば世の中良くなるでしょうよね」
「そうだな」
だが現政権は、聖職者や宗教団体とも実は折り合いが悪い。ことあるごとに政府や軍のすることに意義を申し立ててくるからだ。
「いよいよ明後日は結婚式ですね。休暇は取らないんですか? 新婚旅行は?」
うるさい奴だと思いながらもアレクサンダーは答えた。
「今は忙しいので新婚旅行はなしにしようと思っていたのだが、アディ……、相手が嘆くので、二カ月後に行くつもりだ」
「新婚旅行もなしじゃ花嫁さんが気の毒ですよ。いいですねぇ、花嫁さんは十八歳でしょう? ひひひひ」
下品な笑い声がアレクサンダーの鼓膜をひっかく。アレクサンダーは眉をしかめたいのをこらえて、話を打ち切ろうとした。
「では、ヴルブナ中尉、私はこれで」
ちょうど二人は裁判所の玄関先に出ていた。石の階段脇に申し訳ていどに造られた花壇に芍薬の花が幾輪か咲いて、殺風景な場所に文字通りささやかな華を添えている。薄紫色の花びらに、午後のやわらかな光が降りそそぐ。むろん、アレクサンダーは目も向けない。
「ああ、肝心のことを忘れていましたよ。今夜、ダールケ大佐が会いたいと」
それを最初に言え、と内心腹を立てつつも、やはりアレクサンダーは顔に出さない。
「大佐が? 仕事でか? 個人的な用事でか?」
待たせていた車のところまで歩きながらアレクサンダーは訊いた。
「両方だそうですよ。まぁ、個人的な用事の方が強いでしょう。結婚のお祝いじゃないですか?」
面倒だと思いながらも、やはり上官の誘いは断れない。とはいうものの、ダールケ大佐と会うのかと思うと気が重い。
ダールケ大佐個人ともそう気が合う方ではないが、厄介なのは、ヴルブナはどういうわけかダールケ大佐に気に入られているのだ。階級は違うが、よくダールケ大佐に呼ばれて公私ともに付き合いがあるらしい。
「最近、裁判が増えましたね。今日の被告はホモの坊主ですよ。見習いの修道士に手を出したとか。こういう奴らが一掃されれば世の中良くなるでしょうよね」
「そうだな」
だが現政権は、聖職者や宗教団体とも実は折り合いが悪い。ことあるごとに政府や軍のすることに意義を申し立ててくるからだ。
「いよいよ明後日は結婚式ですね。休暇は取らないんですか? 新婚旅行は?」
うるさい奴だと思いながらもアレクサンダーは答えた。
「今は忙しいので新婚旅行はなしにしようと思っていたのだが、アディ……、相手が嘆くので、二カ月後に行くつもりだ」
「新婚旅行もなしじゃ花嫁さんが気の毒ですよ。いいですねぇ、花嫁さんは十八歳でしょう? ひひひひ」
下品な笑い声がアレクサンダーの鼓膜をひっかく。アレクサンダーは眉をしかめたいのをこらえて、話を打ち切ろうとした。
「では、ヴルブナ中尉、私はこれで」
ちょうど二人は裁判所の玄関先に出ていた。石の階段脇に申し訳ていどに造られた花壇に芍薬の花が幾輪か咲いて、殺風景な場所に文字通りささやかな華を添えている。薄紫色の花びらに、午後のやわらかな光が降りそそぐ。むろん、アレクサンダーは目も向けない。
「ああ、肝心のことを忘れていましたよ。今夜、ダールケ大佐が会いたいと」
それを最初に言え、と内心腹を立てつつも、やはりアレクサンダーは顔に出さない。
「大佐が? 仕事でか? 個人的な用事でか?」
待たせていた車のところまで歩きながらアレクサンダーは訊いた。
「両方だそうですよ。まぁ、個人的な用事の方が強いでしょう。結婚のお祝いじゃないですか?」
面倒だと思いながらも、やはり上官の誘いは断れない。とはいうものの、ダールケ大佐と会うのかと思うと気が重い。
ダールケ大佐個人ともそう気が合う方ではないが、厄介なのは、ヴルブナはどういうわけかダールケ大佐に気に入られているのだ。階級は違うが、よくダールケ大佐に呼ばれて公私ともに付き合いがあるらしい。
0
お気に入りに追加
144
あなたにおすすめの小説


平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
執着攻めと平凡受けの短編集
松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。
疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。
基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)



美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる