紅蓮の島にて、永久の夢

文月 沙織

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婚前診断 一

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 裁判所の役員や公務員たちが自分のために端に寄るのを、まったく気にもとめず、まるで彼らなど存在しないかのようにアレクサンダーは歩を進める。
「最近、裁判が増えましたね。今日の被告はホモの坊主ですよ。見習いの修道士に手を出したとか。こういう奴らが一掃されれば世の中良くなるでしょうよね」
「そうだな」
 だが現政権は、聖職者や宗教団体とも実は折り合いが悪い。ことあるごとに政府や軍のすることに意義を申し立ててくるからだ。
「いよいよ明後日は結婚式ですね。休暇は取らないんですか? 新婚旅行は?」
 うるさい奴だと思いながらもアレクサンダーは答えた。
「今は忙しいので新婚旅行はなしにしようと思っていたのだが、アディ……、相手が嘆くので、二カ月後に行くつもりだ」
「新婚旅行もなしじゃ花嫁さんが気の毒ですよ。いいですねぇ、花嫁さんは十八歳でしょう? ひひひひ」
 下品な笑い声がアレクサンダーの鼓膜をひっかく。アレクサンダーは眉をしかめたいのをこらえて、話を打ち切ろうとした。
「では、ヴルブナ中尉、私はこれで」
 ちょうど二人は裁判所の玄関先に出ていた。石の階段脇に申し訳ていどに造られた花壇に芍薬の花が幾輪か咲いて、殺風景な場所に文字通りささやかな華を添えている。薄紫色の花びらに、午後のやわらかな光が降りそそぐ。むろん、アレクサンダーは目も向けない。
「ああ、肝心のことを忘れていましたよ。今夜、ダールケ大佐が会いたいと」
 それを最初に言え、と内心腹を立てつつも、やはりアレクサンダーは顔に出さない。
「大佐が? 仕事でか? 個人的な用事でか?」
 待たせていた車のところまで歩きながらアレクサンダーは訊いた。
「両方だそうですよ。まぁ、個人的な用事の方が強いでしょう。結婚のお祝いじゃないですか?」
 面倒だと思いながらも、やはり上官の誘いは断れない。とはいうものの、ダールケ大佐と会うのかと思うと気が重い。
 ダールケ大佐個人ともそう気が合う方ではないが、厄介なのは、ヴルブナはどういうわけかダールケ大佐に気に入られているのだ。階級は違うが、よくダールケ大佐に呼ばれて公私ともに付き合いがあるらしい。
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