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女神の寵児 二
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アディーレは帝国のもとめる理想の金髪碧眼――アレクサンダーのように――というわけではないが、烏の濡れ羽色の漆黒の髪に黒水晶を思わせる黒瞳の、なかなかの美少女だが、どちからといえば妹のような存在で、熱い恋情を感じることはなかった。今はまだ。
(そもそも……)
アレクサンダーは晴れやかな空のもと、内心ため息を吐いた。
(――恋というものが、今ひとつ私には解らないな)
士官学校を出て脇目もふらず軍人としての仕事に専念してきたアレクサンダーには、恋愛遊戯にふけっている暇などない。その甲斐あって順調に異例の出世を遂げ、つい最近の戦争では武勲をたて少佐の地位も約束された。もっともアレクサンダーの出世の早さは、彼の優れた容姿によるものだという、妬み半分の影口もあることはあるが、アレクサンダーは無視している。
たしかに見栄えの良さや、国有数の名門貴族の出自という点も出世には影響したろうが、なによりアレクサンダー自身の能力とたゆまぬ努力の賜物だと信じている。
だが、その一方で異性にかんしてはまるで晩生な彼である。
目の前で初恋の少女の花嫁姿を思い描いて、笑顔のなかにも憂いをしのばせている従弟のように、人を、異性を想うという経験を、正直な話、アレクサンダーはまだしたことがないのだ。
そう思うと、恋心を感じない妹のような存在のアディーレと結婚することは、彼女を想っているカールに対して惨いことのような気がしてくるが、だからといって今更結婚を取りやめることなどできない。
アレクサンダーの実家モール家とブロンベルク家は長年の付き合いがあり、アディーレが生まれたとき、アレクサンダーが八歳の誕生日をむかえたときに、この結婚は両家によって決められていたのだ。
なにより帝国は良き子孫をのこすことを国民に薦めている。結婚して子を成し、次代の国家をささえる新たな優秀な人間をはぐくむことは国民の義務でもある。
「しかし早いものだなぁ。ついこの前まではギムナジウムの制服がぶかぶかに見えた子が、もう結婚かね」
トマス叔父が腕を組み、感慨深そうにつぶやく。
「二週間後には、美しいモール少佐の腕には可憐な処女妻がいるんだね」
(そもそも……)
アレクサンダーは晴れやかな空のもと、内心ため息を吐いた。
(――恋というものが、今ひとつ私には解らないな)
士官学校を出て脇目もふらず軍人としての仕事に専念してきたアレクサンダーには、恋愛遊戯にふけっている暇などない。その甲斐あって順調に異例の出世を遂げ、つい最近の戦争では武勲をたて少佐の地位も約束された。もっともアレクサンダーの出世の早さは、彼の優れた容姿によるものだという、妬み半分の影口もあることはあるが、アレクサンダーは無視している。
たしかに見栄えの良さや、国有数の名門貴族の出自という点も出世には影響したろうが、なによりアレクサンダー自身の能力とたゆまぬ努力の賜物だと信じている。
だが、その一方で異性にかんしてはまるで晩生な彼である。
目の前で初恋の少女の花嫁姿を思い描いて、笑顔のなかにも憂いをしのばせている従弟のように、人を、異性を想うという経験を、正直な話、アレクサンダーはまだしたことがないのだ。
そう思うと、恋心を感じない妹のような存在のアディーレと結婚することは、彼女を想っているカールに対して惨いことのような気がしてくるが、だからといって今更結婚を取りやめることなどできない。
アレクサンダーの実家モール家とブロンベルク家は長年の付き合いがあり、アディーレが生まれたとき、アレクサンダーが八歳の誕生日をむかえたときに、この結婚は両家によって決められていたのだ。
なにより帝国は良き子孫をのこすことを国民に薦めている。結婚して子を成し、次代の国家をささえる新たな優秀な人間をはぐくむことは国民の義務でもある。
「しかし早いものだなぁ。ついこの前まではギムナジウムの制服がぶかぶかに見えた子が、もう結婚かね」
トマス叔父が腕を組み、感慨深そうにつぶやく。
「二週間後には、美しいモール少佐の腕には可憐な処女妻がいるんだね」
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