鈴の鳴る夜に

文月 沙織

文字の大きさ
上 下
20 / 66

夜遊び 一

しおりを挟む
「え、ええ?」
 仰天している竜樹に須藤はそっけなく言う。
「なにを驚いている? まえに約束したろう、本物の馬に乗せてやる、と。ほら、脱げ」
「じょ、冗談だろ!」
 竜樹は夜目にも真っ赤になって憤ったが、その怒りをどこふく風と受けながし、須藤は持っていた鞭先で竜樹のシャツの釦をつついた。
「ほら、早く脱げ」
 声は本気だった。
 絶対に嫌だ、ことわる、と怒鳴って去ってしまえばよかったのだが、それがどうしても竜樹にはできない。耳たぶまで真っ赤になり怒りに身を燃やし、悪魔のような男を睨みつけ、罵声を浴びせても、それでも、竜樹は最後にはみずから胸のぼたんをはずし、草地のうえにシャツを脱ぎすてた。
 十六……もうすぐ十七になろうかという、若々しい、というよりはまだまだ子どもめいた少年の肌を夜気が刺す。
「これでいいだろう?」
「なに甘いこと言っているんだ? ほら、下も脱げ」
「なっ……! こ、こんなところ人に見られたらどうするんだよ?」
 うろたえる竜樹にあっさりと須藤は告げた。
「安心しろ。今夜は客人が来るから雛倉家の人は馬場へは来ないさ。さ、早く脱げ」
 羞渋しながらも、どうしょうもなく竜樹はズボンのベルトに手をかけた。
(どうして……、僕は正二にさからえないんだろう?)
 惨めさ悔しさに泣きだしたいのをこらえ、黒いズボンを脱ぐと、それも地面にたたきつける。
「これはいいな。ちょっとしたストリップだな。今浅草で流行っているんだ。今度、連れていってやるよ。脱ぎかたの勉強になるぞ」
 むごくも須藤は頬を染めて悔し泣きしそうな竜樹を笑いながら見ている。
「ほら、ほら。最後のそれも脱げ」
「……これだけは許して……」
 さすがに最後の一枚は脱げず、竜樹は哀願するように言うが、そこで許すような須藤ではない。鞭先が白い下着の端に触れたかと思うと、強くふりあげあられ、次の瞬間には、竜樹の太腿のあたりに焼けつくような痛みが走った。
「ひぃっ!」
 竜樹は痛みと衝撃にその場にうずくまってしまった。
「駄目だ。全部脱げ。脱ぐんだ、竜樹。靴も靴下も全部だ」
 須藤の声は、恋人でも上司でもない、主人のものだった。主人が奴隷に命じているのだ。
「ああ……」
 竜樹は恐怖にくずれ落ちそうになったが、そこで奇妙なことに、持ちまえの負けん気が起きたのだ。
 鞭をふるう加虐者にたいして、被虐者のゆいいつの抵抗は、受けてたってやるというなけなしの気骨なのかもしれない。
 逃げだすのではなく、あえて相手の指示にしたがいつつも、全身からは、もとは名家の子息として誇りたかく育てられた世間知らずだった少年の持つ高慢なまでの自尊心で、怒りと憎しみをかてに竜樹は立ち向かった。もはや、目の前の男が恋しいのか憎いのか竜樹自身でもわからなくなってくる。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

あなたのサイコパス度が分かる話(短編まとめ)

ミィタソ
ホラー
簡単にサイコパス診断をしてみましょう

催眠アプリ(???)

あずき
BL
俺の性癖を詰め込んだバカみたいな小説です() 暖かい目で見てね☆(((殴殴殴

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

双葉病院小児病棟

moa
キャラ文芸
ここは双葉病院小児病棟。 病気と闘う子供たち、その病気を治すお医者さんたちの物語。 この双葉病院小児病棟には重い病気から身近な病気、たくさんの幅広い病気の子供たちが入院してきます。 すぐに治って退院していく子もいればそうでない子もいる。 メンタル面のケアも大事になってくる。 当病院は親の付き添いありでの入院は禁止とされています。 親がいると子供たちは甘えてしまうため、あえて離して治療するという方針。 【集中して治療をして早く治す】 それがこの病院のモットーです。 ※この物語はフィクションです。 実際の病院、治療とは異なることもあると思いますが暖かい目で見ていただけると幸いです。

処理中です...