昭和幻想鬼譚

文月 沙織

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終末の夏 六

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 だが、そんな新しい時代の成金たちのなかに、あの男を見たときは、さすがに世の転変を見続け、昨日に変わる今の世の変わりように慣れつつあった僕も、目を見張った。
 戦後、家が没落したあと、僕はそれでもわずかに残った財産をあつめて小さな事業を起こし、生きるために日々必死に走りまわっていた。
 そんなとき、仕事上の義理や、顔を売るために出席したあるパーティーで、その男を見たのだ。
 最初はよく似た別人だと思った。
 まさか……、と思った。
 だが、間違いなく、〝彼〟だった。
 なにより、彼自身の方が、客のなかに僕をみとめて、先に寄ってきたのだ。
「これは……久しぶりですね、坊ちゃん」
 僕は我が目と耳を疑った。
 その男は……高級そうな――この当時の日本では、本当に恵まれた一部の人間しか着られないような漆黒の燕尾服に身をつつんで、紳士然として立っていたのだ。
 かつては猫背でがに股だったと思うが、今ではたくましく恰幅良くみえる姿となって立ち、かつてはほとんど見られなかった知性を鋭い双眼に宿し、男は色黒の顔に笑みを浮かべた。
 僕は息をのんで、目の前に立った大男を呆然と見つめていた。
 蓬頭垢面ほうとうくめんそのものだった頭は清潔さをたもって髪は総髪の形に撫でつけられており、野蛮で剣呑そのものだった顔は、いまや強固な意志を思わせ、屈強そうな体躯とあいまって、全体にいかにも豪傑といった風情をただよわせ、ほかの客たちの注目を受けていた。男客に一目置かれているだけではなく、宴の花に呼ばれた芸者やホステスたちの目も引き寄せている。
 信じられないが……もはや、間違いない。この男は、かつて相馬家の使用人だった男だ。 
「う、牛雄……?」 
 驚愕している僕のまえで、相手はかるく頷いた。 

 僕が驚いたのは彼の出現だけではない。彼の後ろにいた、彼と並ぶと背が低く見える、連れらしき一人の初老の男だ。
 そちらも僕を見てやや驚き、軽い会釈をした。
「あなたは、たしか……相馬氏の甥御さんだったかな? 望のいとこでしたね?」
 僕は意外な二人の男たちとの邂逅に驚愕しつつも、うなずいた。
 初老の男は、雨沼氏である。 
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