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秘密 七
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だが、自分がその妖怪の末裔にあたるなど、あまりに非現実的で、望は信じることなどできなかった。
「ほほほほほ。信じようが信じまいが、これは事実ですよ、坊ちゃん。あんたには、あたしたちと同じ化け物の血が流れているんだよ」
「うるさい!」
殴ろうとしたわけではなく、玉琴のもたらすおぞましい言葉を払いのけたくて、望は手を宙に向けていた。
「あっ!」
望の手はもろに玉琴の顔面を打つかたちになり、玉琴は顔をぶたれた屈辱に切れ長の目に怒りを燃やした。
望はぎょっとした。
美しい玉琴の顔が、一瞬、老婆のように見えたのだ。
だがそれは一瞬のことで、すぐもとの美しい冷たそうな顔にもどったが、伝説に聞く、玉藻の前の正体が見破られた瞬間とは、こういう感じだったのかもしれない。
「畜生! よくもやったね、小僧が!」
逆上した玉琴の鋭い爪が、望の顔をひっかこうとする。
「何するんだ、この化け物!」
望も気が高ぶっていた。
さすがに都はあわて、つかみあいになっている二人のあいだに、細い身体を入れこむようにした。
玉琴が振り上げた手が、今まさに望の頬に向かおうとした瞬間、都の悲鳴のような声が室に響く。
「おやめなさい、玉琴!」
かろうじて玉琴は姉の言葉に耳をかした。
「だ、だって……この餓鬼があんまりにも生意気だから……あ、あたしたちのおかげで命があるっていうのにさ」
さも憎々しげに玉琴が息を切らしながら言う。
「こんなことをしている場合ではないわ。望様、こうしてすべてをお伝えしたのですから、覚悟をお決めください。すべてを知ったうえで、この相馬の当主となられるのか、否か?」
「も、もし、僕がこんな化け物屋敷を継ぐのは嫌だと言ったら、どうするんだよ?」
望もまた息を切らしながら尋ねると、訊かれたこととは違うことを都は口にした。
「望様、もし相馬家の当主となられたならば、望様は今後一族の長として、一族すべてをしたがわせる権利をお持ちになられます。もちろん、相馬家の当主としての義務も果たしていただくことになりますが」
「ほほほほほ。信じようが信じまいが、これは事実ですよ、坊ちゃん。あんたには、あたしたちと同じ化け物の血が流れているんだよ」
「うるさい!」
殴ろうとしたわけではなく、玉琴のもたらすおぞましい言葉を払いのけたくて、望は手を宙に向けていた。
「あっ!」
望の手はもろに玉琴の顔面を打つかたちになり、玉琴は顔をぶたれた屈辱に切れ長の目に怒りを燃やした。
望はぎょっとした。
美しい玉琴の顔が、一瞬、老婆のように見えたのだ。
だがそれは一瞬のことで、すぐもとの美しい冷たそうな顔にもどったが、伝説に聞く、玉藻の前の正体が見破られた瞬間とは、こういう感じだったのかもしれない。
「畜生! よくもやったね、小僧が!」
逆上した玉琴の鋭い爪が、望の顔をひっかこうとする。
「何するんだ、この化け物!」
望も気が高ぶっていた。
さすがに都はあわて、つかみあいになっている二人のあいだに、細い身体を入れこむようにした。
玉琴が振り上げた手が、今まさに望の頬に向かおうとした瞬間、都の悲鳴のような声が室に響く。
「おやめなさい、玉琴!」
かろうじて玉琴は姉の言葉に耳をかした。
「だ、だって……この餓鬼があんまりにも生意気だから……あ、あたしたちのおかげで命があるっていうのにさ」
さも憎々しげに玉琴が息を切らしながら言う。
「こんなことをしている場合ではないわ。望様、こうしてすべてをお伝えしたのですから、覚悟をお決めください。すべてを知ったうえで、この相馬の当主となられるのか、否か?」
「も、もし、僕がこんな化け物屋敷を継ぐのは嫌だと言ったら、どうするんだよ?」
望もまた息を切らしながら尋ねると、訊かれたこととは違うことを都は口にした。
「望様、もし相馬家の当主となられたならば、望様は今後一族の長として、一族すべてをしたがわせる権利をお持ちになられます。もちろん、相馬家の当主としての義務も果たしていただくことになりますが」
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