昭和幻想鬼譚

文月 沙織

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再生の日 三

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 紺色の着物は地味なものだが、質は良さそうだ。どう見ても、近在の農家の嫁には見えない。とはいっても、娘と呼ぶには歳がいっている。この辺りでは女は二十歳前に嫁に行く。
 それにしても望が驚いたのは、本道から外れたこんな田舎の奥地で、着物姿の女を見たことだ。ここまで歩いてきたのだろうか。本道までは車できたとしても、こんな野道までどうやって来たのか。ここら辺では田夫しか見かけたことがない望は、不思議なものを見るような想いで女を見ていた。
「まぁ、どうなさったんでございますか? そんな狐に化かされたような顔をなさって。ほほほほほ」
 言葉には、どことなく関西弁の響きが感じられた。
「え……と、あの、あなたは?」
 向こうは望のことを知っているようだ。 
 女は豊かそうな黒髪を結いあげており、雰囲気や物腰からどことなく堅気の女ではないことが匂ってくる。父か祖父の贔屓の芸者だろうか。それにしてもこんなところを芸者が一人で歩いているなどおかしい。
「あの、どちら様ですか?」
 女は切れ長の魅力的な瞳に恨みをほのかに燃やした。人から忘れられることなど、この女には滅多にないのだろう。
「あら? 寂しいわ。私のことはすっかりお忘れで? ほら、以前お会いしたことがあったではございませんか?」
 言われてみれば、どこかで会ったような……。誰かに似ている気もする。
 望は、まじまじと相手を見つめていた。
 女は、紅く濃く塗ってある唇の両端を釣りあげた。
「玉琴でございますよ、坊ちゃま」

 玉琴――。
 一瞬、望は呼吸をとめていた。
 たしかに聞いたことがある。
 その名を耳にした瞬間、洪水のように、かつての記憶が頭にあふれでてきた。
 その名を呼んでいたのは祖父だった。
 祖父は、幾度となくその名を口にしていた。
「まぁ、どうなさったんでございますか? そんな、驚いた顔をなされて……。嫌でございますよ」
「え……、あ、いえ、あの……すいません。びっくりしたもので」
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