111 / 190
黄昏の季節 八
しおりを挟む
そう言って、話しかけることを止めなかった。
真面目で学問好きの彼は自身が学ぶことが好きなのと同様、他者を教え導くことに喜びを感じるのだろう。
だが、そういう香寺の善良さと、優しさ、美しさが、牛雄の羨望と欲望をかきたてたのだ。
自分にはまったくない知性と美を備えた香寺を見る目に、情欲がにじみはじめていたのを、望は感じとっていた。
香寺がこの野人に親切にするのを、望は以前から心良く思っていなかった。おそらくは、自分だけの家庭教師がほかの人間にかまうのが許せないという、子どもっぽい嫉妬がまじっていたのだ。
幼稚な独占欲と征服欲。それが今最悪のかたちで弾けてしまった。
「く、くるな! 出ていけ! 出ていってくれ!」
香寺の悲痛ささえ感じさせる声に、牛雄はたじろいだ。
「牛雄、どうしたんだい、そんなにおどおどして? 僕が、いや俺がいいと言っているのだから、遠慮なく見るがいい」
香寺は戒められた状態で必死に抗ったが、椅子が無意味に音をたてるだけだった。
そんな家庭教師の哀れなすがたを見て、望は笑っていた。少年らしくない邪悪で険悪な笑い方だ。
「ほうら、見てみろよ、牛雄」
言うや、望は香寺の左右の尻たぶに両手をかけ、心もちひろげる。
「ああっ!」
空気を感じて、香寺が絶望的な悲鳴をはなった。
今度は牛雄もひきさがらなかった。よく見ようと望の側へにじり寄る。
「うう……」
牛雄は感嘆したように喘いだ。
黒い頬を赤く染め、目はたぎるばかりに欲望と好奇心に燃えている。
「どうだ、牛雄? あこがれの香寺先生の……蕾は? 可愛いだろう? とても同じ男とは思えないだろう?」
こく、こくと牛雄が首を縦に振る。幼児のような仕草であり、知能もやはり子どもほどにしかないのだと望は蔑んだ。
「香寺先生、牛雄が涎を垂らして先生の秘密を見ていますよ」
香寺が全身で身をよじるのを面白そうに見つめながら、なおも望はつづける。
真面目で学問好きの彼は自身が学ぶことが好きなのと同様、他者を教え導くことに喜びを感じるのだろう。
だが、そういう香寺の善良さと、優しさ、美しさが、牛雄の羨望と欲望をかきたてたのだ。
自分にはまったくない知性と美を備えた香寺を見る目に、情欲がにじみはじめていたのを、望は感じとっていた。
香寺がこの野人に親切にするのを、望は以前から心良く思っていなかった。おそらくは、自分だけの家庭教師がほかの人間にかまうのが許せないという、子どもっぽい嫉妬がまじっていたのだ。
幼稚な独占欲と征服欲。それが今最悪のかたちで弾けてしまった。
「く、くるな! 出ていけ! 出ていってくれ!」
香寺の悲痛ささえ感じさせる声に、牛雄はたじろいだ。
「牛雄、どうしたんだい、そんなにおどおどして? 僕が、いや俺がいいと言っているのだから、遠慮なく見るがいい」
香寺は戒められた状態で必死に抗ったが、椅子が無意味に音をたてるだけだった。
そんな家庭教師の哀れなすがたを見て、望は笑っていた。少年らしくない邪悪で険悪な笑い方だ。
「ほうら、見てみろよ、牛雄」
言うや、望は香寺の左右の尻たぶに両手をかけ、心もちひろげる。
「ああっ!」
空気を感じて、香寺が絶望的な悲鳴をはなった。
今度は牛雄もひきさがらなかった。よく見ようと望の側へにじり寄る。
「うう……」
牛雄は感嘆したように喘いだ。
黒い頬を赤く染め、目はたぎるばかりに欲望と好奇心に燃えている。
「どうだ、牛雄? あこがれの香寺先生の……蕾は? 可愛いだろう? とても同じ男とは思えないだろう?」
こく、こくと牛雄が首を縦に振る。幼児のような仕草であり、知能もやはり子どもほどにしかないのだと望は蔑んだ。
「香寺先生、牛雄が涎を垂らして先生の秘密を見ていますよ」
香寺が全身で身をよじるのを面白そうに見つめながら、なおも望はつづける。
0
あなたにおすすめの小説
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる