昭和幻想鬼譚

美しいとき 七

　それは望にとって喜びであり、おそらくは、雨沼の狙いだったのだろう。
　自分は、もしかしたら雨沼という老獪な妖物に使嗾しそうされており、ある意味では香寺と変わることなく、自分もまた雨沼のてのひらで転がされているのかもしれない。
　そう考えるところが、性欲におぼれてはいても望が本来、聡明な少年だという証しだろう。
（だとしても、かまうものか）
　望は不敵に笑っていた。
　醜悪な性具を見つめ、唇をゆがめて笑う美少年というのは、これまた妖美に満ちた一枚の絵のようである。
「入っていいかな？」
　静かな声が聞こえてきた。香寺だ。
　望はとりあえず道具を箱に戻した。
「どうぞ」
「都さんが、宿題をみてやってほしいと……」
　心なしか、声には戸惑いと恐れがにじんでいる。
　白い襟元が見るからに清々しく、香寺を純情そうに見せる。いや、実際、香寺はどれほど乱れても純情なところがあるのだ。
　香寺が室に入ってくると、あたりの空気が清らかになった気がする。
　望は一瞬、たまらなく年上の愛人がいとおしく、哀れに思えた。ほんの一瞬のことだが。
　香寺はおずおずとした動作で、いつも使う椅子に腰かける。望に勉強を教えるときは、そうやって望の机のそばに座るのだ。
「今日は雨沼さんの屋敷へ行ってきましたよ。勇さんと一緒に」
「そう」
　眼鏡の奥の目は、机のうえの数学の教科書に向かっているが、頬が緊張して張りつめているのが望にはわかった。
「おもしろい話をいろいろうかがいましたよ」
「そうか……、望君、やめなさい」
　望の右手は教科書を持つ香寺の左手の甲を撫でていた。
「やめなさい、今は勉強の時間だ」
　望は無視して、その手を、香寺の膝の上に置く。
「望君！」
「先生、じっとして」
　膝を撫で、布の感触をたのしみ、やがて股間へと伸ばす。