昭和幻想鬼譚

文月 沙織

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雨夜の帰還 八

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 老いた身体の上で跳ねるみずみずしい身体は、老若と美醜の対照的な絵であったが、幼い望にはひたすら恐ろしいものに思えた。
(ああっ、ああっ、いい、ああ、いいわぁ)
 芸者だけあって声の通りが良く、廊下じゅうに響きそうなあられもない声を玉琴はあげつづけた。
(良いか? 良いか、玉琴?)
(ええ、ええ! もっと、ああ、もっと、御前、もっとぉぉぉ)
 望は耳をふせぎたくなった。
 人の声とは思えなかった。
 この頃、手や頬を撫でる祖父の手に、ねばつくものを感じはじめていた望である。たまらない嫌悪感が祖父にわいた。
 いやらしい、不潔、という概念がまだない子どものころであるので、言葉にして思ったり考えたりしたわけではないが、とてつもない不快感を味わったのだ。
 からみあう玉琴の白い脚と、土気色をした祖父の脚がたまらなく醜く感じたからかもしれない。
 老いても色欲に溺れる祖父もおぞましいが、金で買われた芸者とはいえ、よろこんで――まぎれもなく悦んでいることが、幼い望にも本能でわかった――玉琴もゆるせないほど不愉快な存在に思えたのだ。言葉にして意識したわけではないが。
 祖父が望の身体にはっきりと欲望を持って触れてくるようになったのは、それから数日後のことだった。身体の中心をじかに弄られるようになったのだ。
 思い出した。
 あのとき祖父が玉琴を迎えた室が、この座敷だったのだ。薄闇にかすかに見える襖の青海波の模様に確信がわく。 
 いま、あのときとおなじ青海波の波しぶき散る襖の向こうで、なにが行われているのか。
 望は迷ったが、意を決して襖の引き手に触れた。
 見てしまったら、自分はどう思うのだろう。あのとき祖父と玉琴に感じたのと同じように、激しい嫌悪と軽蔑を感じるのだろうか。
 襖がかすかに開かれると、廊下の闇の向こうに、今度は座敷の闇がひろがる。
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