昭和幻想鬼譚

文月 沙織

文字の大きさ
上 下
20 / 190

雨夜の帰還 七

しおりを挟む
(雨のせいだ……眠れないのは。そう、雨が怖いから。叔父様のところへ行きたい)
 雨音におびえて叔父の室を訪れれば……。言い分はたつ。
 子どもあつかいされると嫌なくせに、こういうときは子どもになって、望は、怯えた幼児のふりをすることにした。
 布団をはねのけ、望は深夜の闇へさまよい出た。

 ひたひたと廊下をいそぐ望の姿は、古い屋敷にさまよう幼い幽霊のように傍目はためには見えたかもしれない。
 寝巻の裾をひるがえし足を速め、幼い情欲の化身となって、望は目当ての室の襖のまえまで来ていた。
 自分の心臓の音が聞こえそうなほどに興奮していた。
 この襖一枚向こうに、勇と仁という、憧れてやまない二人がいるのだ。
(雨音が怖くて、眠れないのです……)
 その言葉を心の内でくりかえして、望は恐る恐る、菊透きくすかしの引手に手をかけた。

「ああっ……!」
 望が、まさに引手を引こうとしたその瞬間、襖の向こうから悲鳴のような声が響いてきた。
 あまりの驚きで、望はその場に凍りついてしまった。
「や、やめ……、もう止め……!」
 間違いない。声はまぎれもなく仁のものだった。
 身動きもできず、望はそこに石のようになって固まっていた。
 もしや空耳かと思ったが、だが、さらにまた声は響いてくる。
「ああっ……、あっ、ああっ」
 普段ならけっして聞くことのない声である。
 何年かまえ、祖父の室からこんな声が聞こえてきたことがある。
 あのときも望は恐る恐る引手に手をかけて、襖の向こうの秘密をさぐろうとした。
 望がそこに見たのは、畳に横たわっている祖父の腰の上で踊る女の白い裸体だった。
 心臓が止まるかと思うほどに衝撃的だった。
 女は……あとで思い出したが、祖父が贔屓にしている芸者だった。たしか玉琴と呼ばれていた。勿論、源氏名だろうが。
 その玉琴が、若い肌をほとんどあらわにして、昼間から祖父と戯れあっているのである。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

大学生はバックヤードで

リリーブルー
BL
大学生がクラブのバックヤードにつれこまれ初体験にあえぐ。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

R指定

ヤミイ
BL
ハードです。

少年達は淫らな機械の上で許しを請う

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集

あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。 こちらの短編集は 絶対支配な攻めが、 快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす 1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。 不定期更新ですが、 1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 書きかけの長編が止まってますが、 短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。 よろしくお願いします!

モルモットの生活

麒麟
BL
ある施設でモルモットとして飼われている僕。 日々あらゆる実験が行われている僕の生活の話です。 痛い実験から気持ち良くなる実験、いろんな実験をしています。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

処理中です...