昭和幻想鬼譚

文月 沙織

文字の大きさ
上 下
17 / 190

雨夜の帰還 四

しおりを挟む
 だが望は、内心いささか面白くない。
 先日、父が、「勇たちもそろそろ身を固めさせないとな」と言っていたのが思い出されたのだ。
 よもや、今回の帰国は嫁とりのためかと思うと、心ざわめく。
「さ、とにかく食堂へ。すぐにお二人のお食事も用意いたします」
 四人が廊下を進むと、ちょうど香寺が食堂から出てきた。
「ああ、お二人とも今日帰ってこられたのですね」
 勇が陽気にこたえた。
「おお、〝先生〟も元気そうだな」
 二人は面識がある。二、三度、東京の家で顔を合わせたことがあるのだ。勇たちが大陸へ渡るまえのことだが。
「先生はやめてください」
 香寺が困ったように笑う。
「いやいや、立派な先生だ。以前見たときは、まだひょろっとした書生殿だったが、今や立派な学士さんだ」
「そんな……私は半人前の未熟者ですよ。未だに将来も定まらない」
 廊下を歩きながら、仁が香寺にたずねた。
「御母上の体調が良くないとか?」
「ええ。まあ……」
 香寺が曖昧にうなずく。
 仁の家の乳母は、香寺と同郷であり、その縁から香寺の実家のことを聞いているらしい。
(香寺の家は、田舎ではそこそこの名家なのだが、親父さんが事業に失敗してな)
 仁から聞いた話を以前、勇叔父が望に手紙で伝えたことがある。
(あれはなかなかの努力家だぞ。家運がかたむいていくなかで育っても愚痴ひとつこぼさず、人に使われる身になっても悲観せず、自力で学費を稼いでいるのだからな)
 望は香寺に同情したものの、自分には、なにひとつそんな身の上を話さない香寺や、仁から疎外されている気がして寂しく思った。
(それは、僕は子どもだけれど)
 こうして集まっていると、自分だけが年齢のせいで蚊帳の外に置かれている気がしてしまう。
 食堂で席に着くと、すぐさま都の指示で増やされた料理をかこんで、やっと一同は食事を取ることになった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

大学生はバックヤードで

リリーブルー
BL
大学生がクラブのバックヤードにつれこまれ初体験にあえぐ。

【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集

あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。 こちらの短編集は 絶対支配な攻めが、 快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす 1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。 不定期更新ですが、 1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 書きかけの長編が止まってますが、 短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。 よろしくお願いします!

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

モルモットの生活

麒麟
BL
ある施設でモルモットとして飼われている僕。 日々あらゆる実験が行われている僕の生活の話です。 痛い実験から気持ち良くなる実験、いろんな実験をしています。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

市川先生の大人の補習授業

夢咲まゆ
BL
笹野夏樹は運動全般が大嫌い。ついでに、体育教師の市川慶喜のことも嫌いだった。 ある日、体育の成績がふるわないからと、市川に放課後の補習に出るよう言われてしまう。 「苦手なことから逃げるな」と挑発された夏樹は、嫌いな教師のマンツーマンレッスンを受ける羽目になるのだが……。 ◎美麗表紙イラスト:ずーちゃ(@zuchaBC) ※「*」がついている回は性描写が含まれております。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

処理中です...