69 / 84
満月と三日月 三
しおりを挟む
「サイラスは、あなたを助けようと必死よ。実は、今日の宴であなたを救いに来ることになっているのよ」
「ほ、本当に?」
イルビア王女の涙でよごれた顔が希望にかがやく。ドルディスからも似たような話を吹きこまれていたので、こういった状況でも救援はかならず来ると信じているのだ。
「だから……警備の男たちの目をごまかすためにも従順なふりをして。諦めて言うことを聞く態度を取るのよ」
「で……でも」
「少しの我慢よ。ここを乗り超えたら、この館から逃げられるのよ。恥ずかしくても悔しくても、死ぬ気でがんばるのよ」
空々しくもマーメイは甘い毒を王女の耳に染みこませていく。
「ああ……、でも、でも」
イルビアは困りきった顔をする。
「与えられた衣装はどんなものなのかしら? それをまとってみて。……大丈夫よ、逃げてしまえば、ここであなたを見た男たちとはもう会うこともないのよ。ほんの一瞬の辛抱よ。ねぇ、王女の衣装を持ってきてちょうだい!」
最後の言葉は大声で廊下で待っている女に向かって言った。しばらくして女は、イルビア王女の衣装を持ってきて、ひろげてみせた。
「まぁ!」
マーメイは思わず笑ってしまい、イルビアは真っ赤になった。
紅い衣装は透けて見えるほどで、まとって立てば、ほとんど身体の線がまる見えである。一応、胸と腰には白い帯布をまくことになっているが、銀欄の縁取りをほどこしたそれは淫靡な印象をあたえ、ひどく煽情的でいかにも娼婦の衣装めいてみえる。いっそ、上半身まるだしのライザの装いの方がまだマシかもしれない。
「さ、王女様、その布きれを取ってしまって、これをまといましょうね」
マーメイは子どもをあやす乳母のような声を出し、無垢な乙女に娼婦の装いを強いた。
「あ……、ああ! やめて」
「まあ」
イルビアのさらけだされた乳白色にかがやく肌は見事なものだった。世間の泥や汚れに染まることなく、無垢で清純におかれた乙女の身体。これほど美しい少女の身体をマーメイは見たことがない。自分は勿論、ライザもリリも、この玉の肌には勝てないだろう。しなやかな動き、話術、閨房術などの手練手管は努力でどうにか身に付けることはできるが、このしっとりとしてみずみずしく、それでいて見る者の目を引き寄せて離さない美肌は、生まれの良さからくる天性のものだ。得ようと思って得られるものではない。
(ああ、ぞくぞくするわ……)
亡国の王女、物語にでてくるような貴種流離譚の薄幸の姫君を目にしているのだと思うと、マーメイは現実の世界で夢物語を見ているような、なんともわくわくした心持ちになってくる。それは、最初の日にサイラスを見たときにも感じたものだ。
これから、この生まれ育ちも類まれな絶世の美少女を泥水のなかへと突き落とし、辱しめ、屈辱に泣かせ、傷つけてやるのかと思うと興奮して仕方ない。
(そうよ、あの両首の道具で……)
マーメイは想像してみた。女性同士をつがわせるときにつがう、両方に淫具の先が伸びた特別あつらえの道具で、この乙女とサイラスを人前でつがわせてやれば、どれほど痛快だろう。すでに二人とも〝路〟をつけてあるから、苦痛は少ないだろう。むしろ、すでに快楽を味わえるまでには鍛えてあるはずだ。
(客たちのまえで、うんと感じさせてやるわ……)
そのための薬も用意してある。
「さ、つらいけれど、ひとときのことよ。我慢して、その衣装をまといましょうね。すぐに、あなたの愛しい婚約者が助けに来てくれるわ」
まさにマーメイは魔女神、女悪魔である。その女悪魔の甘言にたぶらかされて、イルビア王女はすすり泣きながら、己を侮辱するために作られたような衣装をまとった。
「ほ、本当に?」
イルビア王女の涙でよごれた顔が希望にかがやく。ドルディスからも似たような話を吹きこまれていたので、こういった状況でも救援はかならず来ると信じているのだ。
「だから……警備の男たちの目をごまかすためにも従順なふりをして。諦めて言うことを聞く態度を取るのよ」
「で……でも」
「少しの我慢よ。ここを乗り超えたら、この館から逃げられるのよ。恥ずかしくても悔しくても、死ぬ気でがんばるのよ」
空々しくもマーメイは甘い毒を王女の耳に染みこませていく。
「ああ……、でも、でも」
イルビアは困りきった顔をする。
「与えられた衣装はどんなものなのかしら? それをまとってみて。……大丈夫よ、逃げてしまえば、ここであなたを見た男たちとはもう会うこともないのよ。ほんの一瞬の辛抱よ。ねぇ、王女の衣装を持ってきてちょうだい!」
最後の言葉は大声で廊下で待っている女に向かって言った。しばらくして女は、イルビア王女の衣装を持ってきて、ひろげてみせた。
「まぁ!」
マーメイは思わず笑ってしまい、イルビアは真っ赤になった。
紅い衣装は透けて見えるほどで、まとって立てば、ほとんど身体の線がまる見えである。一応、胸と腰には白い帯布をまくことになっているが、銀欄の縁取りをほどこしたそれは淫靡な印象をあたえ、ひどく煽情的でいかにも娼婦の衣装めいてみえる。いっそ、上半身まるだしのライザの装いの方がまだマシかもしれない。
「さ、王女様、その布きれを取ってしまって、これをまといましょうね」
マーメイは子どもをあやす乳母のような声を出し、無垢な乙女に娼婦の装いを強いた。
「あ……、ああ! やめて」
「まあ」
イルビアのさらけだされた乳白色にかがやく肌は見事なものだった。世間の泥や汚れに染まることなく、無垢で清純におかれた乙女の身体。これほど美しい少女の身体をマーメイは見たことがない。自分は勿論、ライザもリリも、この玉の肌には勝てないだろう。しなやかな動き、話術、閨房術などの手練手管は努力でどうにか身に付けることはできるが、このしっとりとしてみずみずしく、それでいて見る者の目を引き寄せて離さない美肌は、生まれの良さからくる天性のものだ。得ようと思って得られるものではない。
(ああ、ぞくぞくするわ……)
亡国の王女、物語にでてくるような貴種流離譚の薄幸の姫君を目にしているのだと思うと、マーメイは現実の世界で夢物語を見ているような、なんともわくわくした心持ちになってくる。それは、最初の日にサイラスを見たときにも感じたものだ。
これから、この生まれ育ちも類まれな絶世の美少女を泥水のなかへと突き落とし、辱しめ、屈辱に泣かせ、傷つけてやるのかと思うと興奮して仕方ない。
(そうよ、あの両首の道具で……)
マーメイは想像してみた。女性同士をつがわせるときにつがう、両方に淫具の先が伸びた特別あつらえの道具で、この乙女とサイラスを人前でつがわせてやれば、どれほど痛快だろう。すでに二人とも〝路〟をつけてあるから、苦痛は少ないだろう。むしろ、すでに快楽を味わえるまでには鍛えてあるはずだ。
(客たちのまえで、うんと感じさせてやるわ……)
そのための薬も用意してある。
「さ、つらいけれど、ひとときのことよ。我慢して、その衣装をまといましょうね。すぐに、あなたの愛しい婚約者が助けに来てくれるわ」
まさにマーメイは魔女神、女悪魔である。その女悪魔の甘言にたぶらかされて、イルビア王女はすすり泣きながら、己を侮辱するために作られたような衣装をまとった。
1
お気に入りに追加
145
あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。


ある少年の体調不良について
雨水林檎
BL
皆に好かれるいつもにこやかな少年新島陽(にいじまはる)と幼馴染で親友の薬師寺優巳(やくしじまさみ)。高校に入学してしばらく陽は風邪をひいたことをきっかけにひどく体調を崩して行く……。
BLもしくはブロマンス小説。
体調不良描写があります。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。


ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる