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水晶の燃える夜 十
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指でさわられ、サイラスは悲鳴をあげた。
「や、やめてくれ!」
「怖がらないで。なにも取って食おうというわけじゃないわ。いい気持ちにしてあげるだけ」
生まれはどうあれ、今のリリはまぎれもなく「悦楽の園」の筆頭娼婦である。マーメイがこの館の女王なら、まちがいなくリリはこの背徳の園の王女だ。彼女は自分の運命を受け入れ、納得し、それどころかその立場を謳歌してすらいる。
「じっとして」
「あ、よせ!」
リリのほっそりとした白い手が、サイラスの細面の顔をとらえ、そっと接吻をする。
「んん……!」
サイラスは嫌がって逃れようとするが、それはならず、唇をむさぼられる。
「ああ……、やっぱり男の身体なのねぇ」
サイラスよりは若いはずのリリが、まるで経験豊富な熟女のような言葉をもらした。いや、たしかにほとんど性的なことを経験せず二十二歳まで生きてきたサイラスとくらべれば、リリはまさしく百戦錬磨の一流娼婦だった。
「あ、素敵、肩も腰も……ちゃんと筋肉がついているのねぇ……。そこらの男より、ずっと……男だわ」
リリの手が、サイラスの腰にのばされ、まさぐるように水晶のつらなる飾り紐をかきわけ、肉をつかもうとする。見物人たちによく見えるようにダリクは少し離れたが、女に嬲られているサイラスを見る黒目はひどく冷たげに光っている。
「よ、よせ!」
男たちよりも激しいリリの愛撫にサイラスは押されっぱなしだ。しかも、リリはサイラスの臀部に伸ばした指で、後ろの取っ手を彼の後ろの園へさらに押そうとする。
「あ、よせ、よせ……! やめてくれ」
「あん……可愛い」
リリが大胆にも片足をあげ、サイラスの身体にむしゃぶりつく。
「うっ……! は、はなれろぉ」
興味深々で、ジャハギルもドルディスも揶揄することも忘れて、リリがサイラスをむさぼっているのを凝視している。
「ああ、ああ、あああ……、やめ、もうやめ!」
室の空気がねばっこくなっていく。
最初は余裕のあったリリの顔も、時間がたつうちにどこか苦痛めいたものをにじませだした。
得たいものが得られないもどかしさに苛々しているようだ。すぐそこに極上の美酒があるのに、手がとどかない。そんな悔しさをうかがわせて、忌々し気に亜麻色の眉を寄せる。
だが、……やがてリリは安心したように寄せていた眉をもとに戻した。
サイラスが泣きそうな顔になって、それでも、この場合どうすることもできず、リリのしなやかで美しい背に両手を伸ばしている。愛はなくとも、ともに大仕事をこなした者同士の連帯感のようなものが生じたのか、互いの手を背にまわしあい、同じく互いの髪に顔をうずめるようにして、ぴったりと身体を寄せ合っている二人は、名工が彫りあげた彫像のように美しかった。白薔薇と白百合がからみあっているようで、見る者たちの心を奪う。イハウも満足そうな顔で酒を飲みながら二人の裸体を見つめている。
「どう? リリ、具合は?」
マーメイに問われたリリはサイラスの肩にうずめていた顔をかすかに持ち上げ、意地悪な妖精のように微笑んだ。
「微妙ですけれど、まぁ、悪くないですわね」
「女相手にも売れそうかしら?」
娼館には時折り金持ちの未亡人や浮気な人妻、好色な若い娘も、男娼を買いにくる。
「うーん。年増女には物足りないかもしれませんけれど、未婚の娘が遊ぶ相手にはちょうどいかも」
「いいわねぇ。男にも女にも売れそうね」
「年増とつがわすときは、張型を使わせたらどうですか? 娼館なら、そういう女同士のお遊び用のもあるでしょう?」
計算高い二人の女の会話にドルディスが口をはさんできた。そんな三匹の色魔たちの会話を、サイラスは青ざめた顔で口答えすることもなくただ聞いているしかない。女に辱しめられた先ほどの行為の衝撃で、思考がうまく働いていないようだ。
彼にとっては、リリとの行為は初めてのことなのだ。この娼館に来てからは、ダリクによって男の手で散々辱しめられていたが、女と肌を合わせたのは本当に初めてだ。
故郷にいたときは、若い女性の手を握ることもほとんどなく、舞踏会で貴族の令嬢たちの手をとるときも、身体の秘密を見抜かれはしないか、普通の男と違っていることに気づかれはしないかと、内心ひやひやしていたのだ。そんな彼にとって今の行為はすさまじい体験だった。
そして衝撃が冷めていくと、激しい羞恥と屈辱がサイラスを襲った。リリとの行為は、男たちの手で弄ばれるのとはまた違った苦痛と悔しさをサイラスにもたらした。
そんな呆然自失の態であるサイラスを尻目に、マーメイは喜々として壁際の棚を指さした。
「ええ、あるわよ。サーリィー、女同士のための張型を持ってきてちょうだい」
「や、やめてくれ!」
「怖がらないで。なにも取って食おうというわけじゃないわ。いい気持ちにしてあげるだけ」
生まれはどうあれ、今のリリはまぎれもなく「悦楽の園」の筆頭娼婦である。マーメイがこの館の女王なら、まちがいなくリリはこの背徳の園の王女だ。彼女は自分の運命を受け入れ、納得し、それどころかその立場を謳歌してすらいる。
「じっとして」
「あ、よせ!」
リリのほっそりとした白い手が、サイラスの細面の顔をとらえ、そっと接吻をする。
「んん……!」
サイラスは嫌がって逃れようとするが、それはならず、唇をむさぼられる。
「ああ……、やっぱり男の身体なのねぇ」
サイラスよりは若いはずのリリが、まるで経験豊富な熟女のような言葉をもらした。いや、たしかにほとんど性的なことを経験せず二十二歳まで生きてきたサイラスとくらべれば、リリはまさしく百戦錬磨の一流娼婦だった。
「あ、素敵、肩も腰も……ちゃんと筋肉がついているのねぇ……。そこらの男より、ずっと……男だわ」
リリの手が、サイラスの腰にのばされ、まさぐるように水晶のつらなる飾り紐をかきわけ、肉をつかもうとする。見物人たちによく見えるようにダリクは少し離れたが、女に嬲られているサイラスを見る黒目はひどく冷たげに光っている。
「よ、よせ!」
男たちよりも激しいリリの愛撫にサイラスは押されっぱなしだ。しかも、リリはサイラスの臀部に伸ばした指で、後ろの取っ手を彼の後ろの園へさらに押そうとする。
「あ、よせ、よせ……! やめてくれ」
「あん……可愛い」
リリが大胆にも片足をあげ、サイラスの身体にむしゃぶりつく。
「うっ……! は、はなれろぉ」
興味深々で、ジャハギルもドルディスも揶揄することも忘れて、リリがサイラスをむさぼっているのを凝視している。
「ああ、ああ、あああ……、やめ、もうやめ!」
室の空気がねばっこくなっていく。
最初は余裕のあったリリの顔も、時間がたつうちにどこか苦痛めいたものをにじませだした。
得たいものが得られないもどかしさに苛々しているようだ。すぐそこに極上の美酒があるのに、手がとどかない。そんな悔しさをうかがわせて、忌々し気に亜麻色の眉を寄せる。
だが、……やがてリリは安心したように寄せていた眉をもとに戻した。
サイラスが泣きそうな顔になって、それでも、この場合どうすることもできず、リリのしなやかで美しい背に両手を伸ばしている。愛はなくとも、ともに大仕事をこなした者同士の連帯感のようなものが生じたのか、互いの手を背にまわしあい、同じく互いの髪に顔をうずめるようにして、ぴったりと身体を寄せ合っている二人は、名工が彫りあげた彫像のように美しかった。白薔薇と白百合がからみあっているようで、見る者たちの心を奪う。イハウも満足そうな顔で酒を飲みながら二人の裸体を見つめている。
「どう? リリ、具合は?」
マーメイに問われたリリはサイラスの肩にうずめていた顔をかすかに持ち上げ、意地悪な妖精のように微笑んだ。
「微妙ですけれど、まぁ、悪くないですわね」
「女相手にも売れそうかしら?」
娼館には時折り金持ちの未亡人や浮気な人妻、好色な若い娘も、男娼を買いにくる。
「うーん。年増女には物足りないかもしれませんけれど、未婚の娘が遊ぶ相手にはちょうどいかも」
「いいわねぇ。男にも女にも売れそうね」
「年増とつがわすときは、張型を使わせたらどうですか? 娼館なら、そういう女同士のお遊び用のもあるでしょう?」
計算高い二人の女の会話にドルディスが口をはさんできた。そんな三匹の色魔たちの会話を、サイラスは青ざめた顔で口答えすることもなくただ聞いているしかない。女に辱しめられた先ほどの行為の衝撃で、思考がうまく働いていないようだ。
彼にとっては、リリとの行為は初めてのことなのだ。この娼館に来てからは、ダリクによって男の手で散々辱しめられていたが、女と肌を合わせたのは本当に初めてだ。
故郷にいたときは、若い女性の手を握ることもほとんどなく、舞踏会で貴族の令嬢たちの手をとるときも、身体の秘密を見抜かれはしないか、普通の男と違っていることに気づかれはしないかと、内心ひやひやしていたのだ。そんな彼にとって今の行為はすさまじい体験だった。
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そんな呆然自失の態であるサイラスを尻目に、マーメイは喜々として壁際の棚を指さした。
「ええ、あるわよ。サーリィー、女同士のための張型を持ってきてちょうだい」
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