上 下
49 / 84

水晶の燃える夜 十

しおりを挟む
 指でさわられ、サイラスは悲鳴をあげた。
「や、やめてくれ!」

「怖がらないで。なにも取って食おうというわけじゃないわ。いい気持ちにしてあげるだけ」
 生まれはどうあれ、今のリリはまぎれもなく「悦楽の園」の筆頭娼婦である。マーメイがこの館の女王なら、まちがいなくリリはこの背徳の園の王女だ。彼女は自分の運命を受け入れ、納得し、それどころかその立場を謳歌してすらいる。

「じっとして」

「あ、よせ!」

 リリのほっそりとした白い手が、サイラスの細面ほそおもての顔をとらえ、そっと接吻をする。

「んん……!」
 サイラスは嫌がって逃れようとするが、それはならず、唇をむさぼられる。

「ああ……、やっぱり男の身体なのねぇ」
 サイラスよりは若いはずのリリが、まるで経験豊富な熟女のような言葉をもらした。いや、たしかにほとんど性的なことを経験せず二十二歳まで生きてきたサイラスとくらべれば、リリはまさしく百戦錬磨の一流娼婦だった。

「あ、素敵、肩も腰も……ちゃんと筋肉がついているのねぇ……。そこらの男より、ずっと……男だわ」
 リリの手が、サイラスの腰にのばされ、まさぐるように水晶のつらなる飾り紐をかきわけ、肉をつかもうとする。見物人たちによく見えるようにダリクは少し離れたが、女に嬲られているサイラスを見る黒目はひどく冷たげに光っている。

「よ、よせ!」
 男たちよりも激しいリリの愛撫にサイラスは押されっぱなしだ。しかも、リリはサイラスの臀部に伸ばした指で、後ろの取っ手を彼の後ろの園へさらに押そうとする。

「あ、よせ、よせ……! やめてくれ」

「あん……可愛い」
 リリが大胆にも片足をあげ、サイラスの身体にむしゃぶりつく。

「うっ……! は、はなれろぉ」
 
 興味深々で、ジャハギルもドルディスも揶揄することも忘れて、リリがサイラスをむさぼっているのを凝視している。

「ああ、ああ、あああ……、やめ、もうやめ!」

 室の空気がねばっこくなっていく。
 最初は余裕のあったリリの顔も、時間がたつうちにどこか苦痛めいたものをにじませだした。
 
 得たいものが得られないもどかしさに苛々しているようだ。すぐそこに極上の美酒があるのに、手がとどかない。そんな悔しさをうかがわせて、忌々し気に亜麻色の眉を寄せる。
 だが、……やがてリリは安心したように寄せていた眉をもとに戻した。
 
 サイラスが泣きそうな顔になって、それでも、この場合どうすることもできず、リリのしなやかで美しい背に両手を伸ばしている。愛はなくとも、ともに大仕事をこなした者同士の連帯感のようなものが生じたのか、互いの手を背にまわしあい、同じく互いの髪に顔をうずめるようにして、ぴったりと身体を寄せ合っている二人は、名工が彫りあげた彫像のように美しかった。白薔薇と白百合がからみあっているようで、見る者たちの心を奪う。イハウも満足そうな顔で酒を飲みながら二人の裸体を見つめている。

「どう? リリ、具合は?」
 マーメイに問われたリリはサイラスの肩にうずめていた顔をかすかに持ち上げ、意地悪な妖精のように微笑んだ。

「微妙ですけれど、まぁ、悪くないですわね」

「女相手にも売れそうかしら?」

 娼館には時折り金持ちの未亡人や浮気な人妻、好色な若い娘も、男娼を買いにくる。

「うーん。年増女には物足りないかもしれませんけれど、未婚の娘が遊ぶ相手にはちょうどいかも」

「いいわねぇ。男にも女にも売れそうね」

「年増とつがわすときは、張型を使わせたらどうですか? 娼館なら、そういう女同士のお遊び用のもあるでしょう?」
 計算高い二人の女の会話にドルディスが口をはさんできた。そんな三匹の色魔たちの会話を、サイラスは青ざめた顔で口答えすることもなくただ聞いているしかない。女に辱しめられた先ほどの行為の衝撃で、思考がうまく働いていないようだ。

 彼にとっては、リリとの行為は初めてのことなのだ。この娼館に来てからは、ダリクによって男の手で散々辱しめられていたが、女と肌を合わせたのは本当に初めてだ。

 故郷にいたときは、若い女性の手を握ることもほとんどなく、舞踏会で貴族の令嬢たちの手をとるときも、身体の秘密を見抜かれはしないか、普通の男と違っていることに気づかれはしないかと、内心ひやひやしていたのだ。そんな彼にとって今の行為はすさまじい体験だった。

 そして衝撃が冷めていくと、激しい羞恥と屈辱がサイラスを襲った。リリとの行為は、男たちの手で弄ばれるのとはまた違った苦痛と悔しさをサイラスにもたらした。
 
 そんな呆然自失の態であるサイラスを尻目に、マーメイは喜々として壁際の棚を指さした。
「ええ、あるわよ。サーリィー、女同士のための張型を持ってきてちょうだい」

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

魔族に捕らえられた剣士、淫らに拘束され弄ばれる

たつしろ虎見
BL
魔族ブラッドに捕らえられた剣士エヴァンは、大罪人として拘束され様々な辱めを受ける。性器をリボンで戒められる、卑猥な動きや衣装を強制される……いくら辱められ、その身体を操られても、心を壊す事すら許されないまま魔法で快楽を押し付けられるエヴァン。更にブラッドにはある思惑があり……。 表紙:湯弐さん(https://www.pixiv.net/users/3989101)

男子学園でエロい運動会!

ミクリ21 (新)
BL
エロい運動会の話。

受け付けの全裸お兄さんが店主に客の前で公開プレイされる大人の玩具専門店

ミクリ21 (新)
BL
大人の玩具専門店【ラブシモン】を営む執事服の店主レイザーと、受け付けの全裸お兄さんシモンが毎日公開プレイしている話。

【R18】ダイブ〈AV世界へ堕とされたら〉

ちゅー
ファンタジー
なんの変哲も無いDVDプレーヤー それはAVの世界へ転移させられる魔性の快楽装置だった 女の身体の快楽を徹底的に焦らされ叩き込まれ心までも堕とされる者 手足を拘束され、オモチャで延々と絶頂を味わされる者 潜入先で捕まり、媚薬を打たれ狂う様によがる者 そんなエロ要素しかない話

出産は一番の快楽

及川雨音
BL
出産するのが快感の出産フェチな両性具有総受け話。 とにかく出産が好きすぎて出産出産言いまくってます。出産がゲシュタルト崩壊気味。 【注意事項】 *受けは出産したいだけなので、相手や産まれた子どもに興味はないです。 *寝取られ(NTR)属性持ち攻め有りの複数ヤンデレ攻め *倫理観・道徳観・貞操観が皆無、不謹慎注意 *軽く出産シーン有り *ボテ腹、母乳、アクメ、授乳、女性器、おっぱい描写有り 続編) *近親相姦・母子相姦要素有り *奇形発言注意 *カニバリズム発言有り

RUBBER LADY 屈辱の性奴隷調教

RUBBER LADY
ファンタジー
RUBBER LADYが活躍するストーリーの続編です

堕ちた父は最愛の息子を欲に任せ犯し抜く

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

処理中です...