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水晶の燃える夜 七
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その声を聞き、帯紐が完全に腰に食い込む手応えを味わったのか、ハジルは満足の笑みを浮かべた。全力をかけて仕事をこなした後の会心の笑みである。
サイラスの両手が宙をさまよい、なにかを掴むような仕草をする。その手をダリクは握り締めてやりたくなったが、一瞬遅く、前方にいたドルディスに役目を奪われていた。
ドルディスは、さも当然といわんばかりにサイラスの両手をつかみ、己の胸に美しい虜囚を引き寄せるようにし、ダリクの胸に黒い火花を散らさせた。
(くそ!)
サイラスの上半身をうばわれた悔しさに、ダリクはサイラスの下半身に目をむけた。
道具に戒められてふるえる臀部はひどく淫らだ。絹と水晶玉をかきわけ、両手ですべらかな肌を味わってみる。
「ん……」
サイラスが金の髪をゆらして官能を伝えてくる。
「サイラスをこっちへ、儂のまえへ連れてまいれ」
イハウのその声にダリクもドルディスも我にかえり、息もたえだえなサイラスの背を押すようにして、この場の主であるイハウのまえにつれていく。
数歩あるくだけだというのに。サイラスはひどく苦し気で、頬を赤くさせている。
「おお、思ったとおりじゃ。よく似合うておるな。ハジル、この道具はなんという?」
「は。《女神の嘆き》という名でございます」
西方の嫉妬ぶかい男たちが、戦や旅で家を長くあけるあいだ、妻や愛人の貞操を守るために使う、股間をいましめる貞操帯という道具があるそうで、この地域でも使用されることがあるが、これはその発想を元にしてハジルが作りだした独特の淫具である。ハジルという男は、そういった道具を専門に作る職人なのだそうだ。
「貞操帯はたんに着ける者に性行為を禁じるためのものものですが、この《女神の嘆き》は身に着ける者の快楽を煽るための道具でございます」
滔々とハジルは主に向かって説明した。聞きながらダリクは呆れたような気持ちになってきが、顔には出さないようにした。
「あら、でもそれなら《女神の嘆き》ではなっく、《女神の悦び》にしてはどう? げんに、サイラスってば、とっても気持ち良さそうな顔をしているじゃない?」
マーメイの悪意をこめた嘲笑に迎合して、ジャハギルまではしゃいだ声をあげる。
「まったくだわ。脚をもじもじさせて、ああ、気持ち良くてたまらないっていう顔してるわよ、このお貴族様」
うっ……! サイラスが屈辱にこらえきれず、嗚咽する一歩手前まで来ていることがダリクにもわかった。
必死に泣きじゃくりそうになるのを耐えているサイラスの顔を見ていると、ダリクの胸にもやもやとした感情がわいてくる。
どこの国でもそうだが、男は、まして軍人武人は人前では泣いてはいけないとされている。サイラスも男として生きてきたのだから、父である亡き前伯爵や、伯爵家の指南係からそう訓導されてきてはずだ。だが、ここで出会ってからのサイラスは、幾度となく禁をやぶって涙を流している。それを惰弱だ、と笑う気にはダリクはなれない。それほどにこのいたぶりは度を越しているのだ。ダリク自身でも幾度もサイラスを追い詰めもした。
たまに奴隷や捕虜で、あまりの辛さに魂を失くしてしまい、何も感じなくなってしまっている人間を見たことがあるが、そこまで行くにはサイラスの精神はまだ強靭である。だが、やはり生来の彼の感性は感じることを止めることはできず、手酷い残酷行為に屈辱の涙を流さずにはいられないでいるのだ。
怒りと悔しさに赤黒いほどに染まった頬を涙で濡らすサイラスを見ていると、ダリクはいてもたってもいられない心持ちになってくる。
ふと、ダリクは今になってサイラスがたまらなくいじらしくなってきた。
だが、だからといってイハウたちの凌辱行為を止めさせたいとは思わないのが不思議だ。そんな力もないが、なにより、やはり気位のたかいサイラスがさらに乱れ、崩壊していく様を見たいという歪んだ欲求がダリクのなかにもあるのだ。
ダリク自身は意識していないが、幼児が好きな女児だからこそ苛めて泣かしてやりたいと思う心理にも似ている。
「ふむ。《女神の悦び》か。……どれ、サイラス、後ろを向いてみよ」
「……」
唇を一文字にひきしめて不遜な表情をするサイラスに、ドルディスが焦れて声を荒らげた。
「ほら、早くサイラス様。言われたことはさっさとするんですよ」
言うや、サイラスの肩をつかんで背後を向かせる。
「ほう……。しっかりと玉を呑んでおるのぅ」
「あっ!」
イハウが水晶玉の取っ手につないだ紐をひっぱると、かすかに黒瑪瑙の先の部分が薄紅色の肉からこぼれて、サイラスをあわてさせた。
「あっ、あっ、や、やめ」
「ははははは。面白いのう。誇り高い将軍様も、ここを引っ張られると弱いらしいのう」
イハウの笑いに合わせるように、マーメイたちも声をあげて笑う。
サイラスの両手が宙をさまよい、なにかを掴むような仕草をする。その手をダリクは握り締めてやりたくなったが、一瞬遅く、前方にいたドルディスに役目を奪われていた。
ドルディスは、さも当然といわんばかりにサイラスの両手をつかみ、己の胸に美しい虜囚を引き寄せるようにし、ダリクの胸に黒い火花を散らさせた。
(くそ!)
サイラスの上半身をうばわれた悔しさに、ダリクはサイラスの下半身に目をむけた。
道具に戒められてふるえる臀部はひどく淫らだ。絹と水晶玉をかきわけ、両手ですべらかな肌を味わってみる。
「ん……」
サイラスが金の髪をゆらして官能を伝えてくる。
「サイラスをこっちへ、儂のまえへ連れてまいれ」
イハウのその声にダリクもドルディスも我にかえり、息もたえだえなサイラスの背を押すようにして、この場の主であるイハウのまえにつれていく。
数歩あるくだけだというのに。サイラスはひどく苦し気で、頬を赤くさせている。
「おお、思ったとおりじゃ。よく似合うておるな。ハジル、この道具はなんという?」
「は。《女神の嘆き》という名でございます」
西方の嫉妬ぶかい男たちが、戦や旅で家を長くあけるあいだ、妻や愛人の貞操を守るために使う、股間をいましめる貞操帯という道具があるそうで、この地域でも使用されることがあるが、これはその発想を元にしてハジルが作りだした独特の淫具である。ハジルという男は、そういった道具を専門に作る職人なのだそうだ。
「貞操帯はたんに着ける者に性行為を禁じるためのものものですが、この《女神の嘆き》は身に着ける者の快楽を煽るための道具でございます」
滔々とハジルは主に向かって説明した。聞きながらダリクは呆れたような気持ちになってきが、顔には出さないようにした。
「あら、でもそれなら《女神の嘆き》ではなっく、《女神の悦び》にしてはどう? げんに、サイラスってば、とっても気持ち良さそうな顔をしているじゃない?」
マーメイの悪意をこめた嘲笑に迎合して、ジャハギルまではしゃいだ声をあげる。
「まったくだわ。脚をもじもじさせて、ああ、気持ち良くてたまらないっていう顔してるわよ、このお貴族様」
うっ……! サイラスが屈辱にこらえきれず、嗚咽する一歩手前まで来ていることがダリクにもわかった。
必死に泣きじゃくりそうになるのを耐えているサイラスの顔を見ていると、ダリクの胸にもやもやとした感情がわいてくる。
どこの国でもそうだが、男は、まして軍人武人は人前では泣いてはいけないとされている。サイラスも男として生きてきたのだから、父である亡き前伯爵や、伯爵家の指南係からそう訓導されてきてはずだ。だが、ここで出会ってからのサイラスは、幾度となく禁をやぶって涙を流している。それを惰弱だ、と笑う気にはダリクはなれない。それほどにこのいたぶりは度を越しているのだ。ダリク自身でも幾度もサイラスを追い詰めもした。
たまに奴隷や捕虜で、あまりの辛さに魂を失くしてしまい、何も感じなくなってしまっている人間を見たことがあるが、そこまで行くにはサイラスの精神はまだ強靭である。だが、やはり生来の彼の感性は感じることを止めることはできず、手酷い残酷行為に屈辱の涙を流さずにはいられないでいるのだ。
怒りと悔しさに赤黒いほどに染まった頬を涙で濡らすサイラスを見ていると、ダリクはいてもたってもいられない心持ちになってくる。
ふと、ダリクは今になってサイラスがたまらなくいじらしくなってきた。
だが、だからといってイハウたちの凌辱行為を止めさせたいとは思わないのが不思議だ。そんな力もないが、なにより、やはり気位のたかいサイラスがさらに乱れ、崩壊していく様を見たいという歪んだ欲求がダリクのなかにもあるのだ。
ダリク自身は意識していないが、幼児が好きな女児だからこそ苛めて泣かしてやりたいと思う心理にも似ている。
「ふむ。《女神の悦び》か。……どれ、サイラス、後ろを向いてみよ」
「……」
唇を一文字にひきしめて不遜な表情をするサイラスに、ドルディスが焦れて声を荒らげた。
「ほら、早くサイラス様。言われたことはさっさとするんですよ」
言うや、サイラスの肩をつかんで背後を向かせる。
「ほう……。しっかりと玉を呑んでおるのぅ」
「あっ!」
イハウが水晶玉の取っ手につないだ紐をひっぱると、かすかに黒瑪瑙の先の部分が薄紅色の肉からこぼれて、サイラスをあわてさせた。
「あっ、あっ、や、やめ」
「ははははは。面白いのう。誇り高い将軍様も、ここを引っ張られると弱いらしいのう」
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