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蜜玉遊び 一
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よく娼館、売春宿は、客の男にとっては天国であり、そこで働く娼婦にとっては地獄だと言われるが、この『悦楽の園』でも、サイラスにとっての地獄の日々は、ダリクにとっては文字どおり悦楽の園で過ごすようなものだった。
サイラスの世話係兼調教師となったダリクは、その日もサイラスの身体を浴場で念入りに洗ってやると、サイラスに与えられた小部屋で、サーリィーが用意してくれていた蜂蜜入りの薬草茶を彼に飲ませていた。
この当時、蜂蜜は高価なもので庶民はめったに手が出るものではないが、マーメイはそれを惜しみなくサイラスに与える。というのも、男娼は身体つきを華奢に見せるためにあまり肉をつけてはいけないという配慮から食事を制限するので、その分の栄養を蜂蜜や果糖で取らせるのだ。厳選された少量の食事も栄養があり肌を美しくさせるもので、その待遇は一般の召使や奴隷にくらべて破格といえるだろう。
食事だけではなく、浴場でつかう石鹸や、入浴後に肌に塗りこむ薔薇の香油、髪を梳く象牙の櫛や、黒曜石を研磨して作られた鏡、身体にまとう薄絹、褥に張られる白布、床に敷かれる毛皮など、どれも庶民なら一生手を出すことのできない最高級のものばかりである。
(お貴族様は、どこまでもいってもお貴族様というわけだな)
無表情で桃花心木の椅子にこしかけ、青銅の杯で高級茶をさも当然のように飲むサイラスを見ながら、ダリクは内心苦笑した。
(その茶も蜂蜜も、貧民が一生働いても一口も飲むことはないんだぞ)
与えられた日々のものに感謝するような節がサイラスにはいっさいないのは、しかしあたりまえだろう。
もともと贅沢が日常であった貴族であり、日々辱しめられ虐待される今の現状が、どれほど他の捕虜や奴隷にくらべれば運が良いのだと説明しても、かつての栄光につつまれたサイラスの人生を思えば、納得できるわけがないのは当然だ。しかも、この後もサイラスにはまた恥辱きわまりない勤めが待っているのだ。
(今日から特別な練習に入るわよ。前も後ろも鍛えてもらわないとね)
責めの内容がどういうものかはダリクにはわからないが、それを告げたときのマーメイの目に浮かんだ淫靡な光が印象にのこっている。これからサイラスが何をされるのか、想像するだけでダリクの胸はたかぶる。そんな興奮をおさえて、サイラスの金の髪を象牙の櫛で梳いてやった。ゆたかな髪の毛先が、サイラスのまとっている薄紫の衣の背に流れる様子は神々しいほどに美しく絵になっている。
ダリクは溜息が出そうになるのをこらえた。この摩訶不思議な美しい生き物と、肌を交えたことが信じられない。
身体を拭いてやったり、髪を梳いてやったりという、普通なら女がするような仕事もすこしも嫌ではない。むしろ、他の娘がやりたがって室に入ってくるのを、ぴしゃりと断ってサイラスの世話をすべて引き受けたのはダリク自身だった。他の誰にも触らせたくない。そんな想いが胸にざわめくのをダリクはなるべく意識しないようにした。
「私のこんな姿を見れて、おまえは嬉しいのだな」
ぽつりとサイラスがめずらしく言葉をこぼした。
サイラスの世話係兼調教師となったダリクは、その日もサイラスの身体を浴場で念入りに洗ってやると、サイラスに与えられた小部屋で、サーリィーが用意してくれていた蜂蜜入りの薬草茶を彼に飲ませていた。
この当時、蜂蜜は高価なもので庶民はめったに手が出るものではないが、マーメイはそれを惜しみなくサイラスに与える。というのも、男娼は身体つきを華奢に見せるためにあまり肉をつけてはいけないという配慮から食事を制限するので、その分の栄養を蜂蜜や果糖で取らせるのだ。厳選された少量の食事も栄養があり肌を美しくさせるもので、その待遇は一般の召使や奴隷にくらべて破格といえるだろう。
食事だけではなく、浴場でつかう石鹸や、入浴後に肌に塗りこむ薔薇の香油、髪を梳く象牙の櫛や、黒曜石を研磨して作られた鏡、身体にまとう薄絹、褥に張られる白布、床に敷かれる毛皮など、どれも庶民なら一生手を出すことのできない最高級のものばかりである。
(お貴族様は、どこまでもいってもお貴族様というわけだな)
無表情で桃花心木の椅子にこしかけ、青銅の杯で高級茶をさも当然のように飲むサイラスを見ながら、ダリクは内心苦笑した。
(その茶も蜂蜜も、貧民が一生働いても一口も飲むことはないんだぞ)
与えられた日々のものに感謝するような節がサイラスにはいっさいないのは、しかしあたりまえだろう。
もともと贅沢が日常であった貴族であり、日々辱しめられ虐待される今の現状が、どれほど他の捕虜や奴隷にくらべれば運が良いのだと説明しても、かつての栄光につつまれたサイラスの人生を思えば、納得できるわけがないのは当然だ。しかも、この後もサイラスにはまた恥辱きわまりない勤めが待っているのだ。
(今日から特別な練習に入るわよ。前も後ろも鍛えてもらわないとね)
責めの内容がどういうものかはダリクにはわからないが、それを告げたときのマーメイの目に浮かんだ淫靡な光が印象にのこっている。これからサイラスが何をされるのか、想像するだけでダリクの胸はたかぶる。そんな興奮をおさえて、サイラスの金の髪を象牙の櫛で梳いてやった。ゆたかな髪の毛先が、サイラスのまとっている薄紫の衣の背に流れる様子は神々しいほどに美しく絵になっている。
ダリクは溜息が出そうになるのをこらえた。この摩訶不思議な美しい生き物と、肌を交えたことが信じられない。
身体を拭いてやったり、髪を梳いてやったりという、普通なら女がするような仕事もすこしも嫌ではない。むしろ、他の娘がやりたがって室に入ってくるのを、ぴしゃりと断ってサイラスの世話をすべて引き受けたのはダリク自身だった。他の誰にも触らせたくない。そんな想いが胸にざわめくのをダリクはなるべく意識しないようにした。
「私のこんな姿を見れて、おまえは嬉しいのだな」
ぽつりとサイラスがめずらしく言葉をこぼした。
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