サファヴィア秘話 ―月下の虜囚―

文月 沙織

文字の大きさ
上 下
26 / 84

落花の舞 四

しおりを挟む
「あら、じゃ、さっそく仕込まないとね。じゃ、まずは指でいくかしら?」

「はぁ!」

 すかさず背後にまわったジャハギルが、己の指をそこへしのばせたようだ。サイラスが身体をのけぞらせるようにして、苦痛と驚愕のまじった悲鳴をあげる。

「待って、ジャハギル。そっちは彼にしてもらうわ。新しい用心棒のダリクよ」

 名を呼ばれてダリクはやや緊張した。戦場や軍隊では屈強な男たちを前にしても怯んだことはなかったが、ジャハギルのような人種はどうも苦手である。

「とはいっても、ダリクも調教師としてはまだまだ未熟なの。あとで彼にいろいろ教えてあげて」

 ダリクは込み上げてくる苦手意識をどうにか顔に出さないように努める。

「調教師が未熟だと話にならないんじゃない?」

「ダリクは以前、サイラスの部下だったのよ。かつて祖国での姿を知っている人間、それも配下の者だった男に嬲られることによって、サイラスはいっそうの屈辱を覚えるでしょう?」
 ジャハギルの不満そうな口調にマーメイがとりなすように説明した。

「つまり、精神的な凌辱感をふかめる、ということね?」

「そう。サイラスにはうんと悔しがって、屈辱に身もだえしてもらわないと」

「ど、どうしてそこまでするんですか?」
 ついダリクは訊いていた。自分はともかくマーメイはサイラスになんの怨恨もないはずだ。

「サイラスがいっそう美しくなるためよ。やがて、いたぶられることで感じる身体になるわ。そうなるとしめたものよ。苛められ辱しめられるごとに美しくなっていくのよ」

 マーメイの黒い瞳が爛蘭らんらんと欲望に燃えている。どうやらこの女は娼館の主人らしく加虐趣味がつよいらしい。さすがにダリクは内心退いたが、その一方で、辱しめらるサイラスを見たいという自分のなかの淫猥いんわいな欲望をたしかに自覚した。

「うふふふふ。おまえも解るクチでしょう? これからこの快楽の女王マーメイが、たっぷりと悦びを教えてあげるわ。サイラスにもおまえにも。いつしかサイラスの方からおまえに跪いて苛めてください、っておねだりするようになるわよ」

 そんなことがあるのだろうか? だが、もしマーメイの言うとおりサイラス=デルビィアスから誇りも自尊心も全てはぎとってしまい、彼を完全な性奴隷に堕とすことができれば、それこそ復讐を成し遂げたことになるのかもしれない。殺すよりも完璧な復讐だ。ダリクはわくわくしてきた。
 
 幸いにも彼らの残酷な会話はサイラスの耳には届いていなかった。サイラスは羞恥の痛みに耐えるので精一杯のようだ。

「とりあえず今日のところはジャハギル、サイラスに踊りを教えてくれるかしら?」

「そうね。最初が肝心よ。そのかっこうのままで練習に入りましょうか」

 この言葉はサイラスの耳にも聞こえたらしい。頬をこれ以上ないほどに赤く染め、サイラスは悔しそうに懇願した。

「せ、せめて腰だけでも……」
 サイラスの碧の瞳は潤んでいる。

「しょうがないわね、お貴族様は」

 やれやれと首を振るとマーメイは石床に落とされていた薄布をひろいあげ、それでサイラスの腰を覆う。透けて見えはしても、その薄布一枚はサイラスの今にも壊れそうな魂をかろうじて守ってくれたようで、サイラスはかすかにだが肌にふれる布の感触に安心を見せた。その様子を見ていたダリクは残忍な笑みを浮かべていた。 

「アルディオリアにいたときは、絹の衣や銀の甲冑をつねに身にまとっていた人が、哀れなものですね」

 その言葉に頬をこわばらせるサイラスを、うっとりとした想いでダリクは眺めた。

 ダリクは己のなかに加虐の快楽が生まれ初めていたことに気づいた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

年越しチン玉蕎麦!!

ミクリ21
BL
チン玉……もちろん、ナニのことです。

皇帝陛下の精子検査

雲丹はち
BL
弱冠25歳にして帝国全土の統一を果たした若き皇帝マクシミリアン。 しかし彼は政務に追われ、いまだ妃すら迎えられていなかった。 このままでは世継ぎが産まれるかどうかも分からない。 焦れた官僚たちに迫られ、マクシミリアンは世にも屈辱的な『検査』を受けさせられることに――!?

後輩が二人がかりで、俺をどんどん責めてくるー快楽地獄だー

天知 カナイ
BL
イケメン後輩二人があやしく先輩に迫って、おいしくいただいちゃう話です。

処理中です...