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落花の舞 四
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「あら、じゃ、さっそく仕込まないとね。じゃ、まずは指でいくかしら?」
「はぁ!」
すかさず背後にまわったジャハギルが、己の指をそこへしのばせたようだ。サイラスが身体をのけぞらせるようにして、苦痛と驚愕のまじった悲鳴をあげる。
「待って、ジャハギル。そっちは彼にしてもらうわ。新しい用心棒のダリクよ」
名を呼ばれてダリクはやや緊張した。戦場や軍隊では屈強な男たちを前にしても怯んだことはなかったが、ジャハギルのような人種はどうも苦手である。
「とはいっても、ダリクも調教師としてはまだまだ未熟なの。あとで彼にいろいろ教えてあげて」
ダリクは込み上げてくる苦手意識をどうにか顔に出さないように努める。
「調教師が未熟だと話にならないんじゃない?」
「ダリクは以前、サイラスの部下だったのよ。かつて祖国での姿を知っている人間、それも配下の者だった男に嬲られることによって、サイラスはいっそうの屈辱を覚えるでしょう?」
ジャハギルの不満そうな口調にマーメイがとりなすように説明した。
「つまり、精神的な凌辱感をふかめる、ということね?」
「そう。サイラスにはうんと悔しがって、屈辱に身もだえしてもらわないと」
「ど、どうしてそこまでするんですか?」
ついダリクは訊いていた。自分はともかくマーメイはサイラスになんの怨恨もないはずだ。
「サイラスがいっそう美しくなるためよ。やがて、いたぶられることで感じる身体になるわ。そうなるとしめたものよ。苛められ辱しめられるごとに美しくなっていくのよ」
マーメイの黒い瞳が爛蘭と欲望に燃えている。どうやらこの女は娼館の主人らしく加虐趣味がつよいらしい。さすがにダリクは内心退いたが、その一方で、辱しめらるサイラスを見たいという自分のなかの淫猥な欲望をたしかに自覚した。
「うふふふふ。おまえも解るクチでしょう? これからこの快楽の女王マーメイが、たっぷりと悦びを教えてあげるわ。サイラスにもおまえにも。いつしかサイラスの方からおまえに跪いて苛めてください、っておねだりするようになるわよ」
そんなことがあるのだろうか? だが、もしマーメイの言うとおりサイラス=デルビィアスから誇りも自尊心も全てはぎとってしまい、彼を完全な性奴隷に堕とすことができれば、それこそ復讐を成し遂げたことになるのかもしれない。殺すよりも完璧な復讐だ。ダリクはわくわくしてきた。
幸いにも彼らの残酷な会話はサイラスの耳には届いていなかった。サイラスは羞恥の痛みに耐えるので精一杯のようだ。
「とりあえず今日のところはジャハギル、サイラスに踊りを教えてくれるかしら?」
「そうね。最初が肝心よ。そのかっこうのままで練習に入りましょうか」
この言葉はサイラスの耳にも聞こえたらしい。頬をこれ以上ないほどに赤く染め、サイラスは悔しそうに懇願した。
「せ、せめて腰だけでも……」
サイラスの碧の瞳は潤んでいる。
「しょうがないわね、お貴族様は」
やれやれと首を振るとマーメイは石床に落とされていた薄布をひろいあげ、それでサイラスの腰を覆う。透けて見えはしても、その薄布一枚はサイラスの今にも壊れそうな魂をかろうじて守ってくれたようで、サイラスはかすかにだが肌にふれる布の感触に安心を見せた。その様子を見ていたダリクは残忍な笑みを浮かべていた。
「アルディオリアにいたときは、絹の衣や銀の甲冑をつねに身にまとっていた人が、哀れなものですね」
その言葉に頬をこわばらせるサイラスを、うっとりとした想いでダリクは眺めた。
ダリクは己のなかに加虐の快楽が生まれ初めていたことに気づいた。
「はぁ!」
すかさず背後にまわったジャハギルが、己の指をそこへしのばせたようだ。サイラスが身体をのけぞらせるようにして、苦痛と驚愕のまじった悲鳴をあげる。
「待って、ジャハギル。そっちは彼にしてもらうわ。新しい用心棒のダリクよ」
名を呼ばれてダリクはやや緊張した。戦場や軍隊では屈強な男たちを前にしても怯んだことはなかったが、ジャハギルのような人種はどうも苦手である。
「とはいっても、ダリクも調教師としてはまだまだ未熟なの。あとで彼にいろいろ教えてあげて」
ダリクは込み上げてくる苦手意識をどうにか顔に出さないように努める。
「調教師が未熟だと話にならないんじゃない?」
「ダリクは以前、サイラスの部下だったのよ。かつて祖国での姿を知っている人間、それも配下の者だった男に嬲られることによって、サイラスはいっそうの屈辱を覚えるでしょう?」
ジャハギルの不満そうな口調にマーメイがとりなすように説明した。
「つまり、精神的な凌辱感をふかめる、ということね?」
「そう。サイラスにはうんと悔しがって、屈辱に身もだえしてもらわないと」
「ど、どうしてそこまでするんですか?」
ついダリクは訊いていた。自分はともかくマーメイはサイラスになんの怨恨もないはずだ。
「サイラスがいっそう美しくなるためよ。やがて、いたぶられることで感じる身体になるわ。そうなるとしめたものよ。苛められ辱しめられるごとに美しくなっていくのよ」
マーメイの黒い瞳が爛蘭と欲望に燃えている。どうやらこの女は娼館の主人らしく加虐趣味がつよいらしい。さすがにダリクは内心退いたが、その一方で、辱しめらるサイラスを見たいという自分のなかの淫猥な欲望をたしかに自覚した。
「うふふふふ。おまえも解るクチでしょう? これからこの快楽の女王マーメイが、たっぷりと悦びを教えてあげるわ。サイラスにもおまえにも。いつしかサイラスの方からおまえに跪いて苛めてください、っておねだりするようになるわよ」
そんなことがあるのだろうか? だが、もしマーメイの言うとおりサイラス=デルビィアスから誇りも自尊心も全てはぎとってしまい、彼を完全な性奴隷に堕とすことができれば、それこそ復讐を成し遂げたことになるのかもしれない。殺すよりも完璧な復讐だ。ダリクはわくわくしてきた。
幸いにも彼らの残酷な会話はサイラスの耳には届いていなかった。サイラスは羞恥の痛みに耐えるので精一杯のようだ。
「とりあえず今日のところはジャハギル、サイラスに踊りを教えてくれるかしら?」
「そうね。最初が肝心よ。そのかっこうのままで練習に入りましょうか」
この言葉はサイラスの耳にも聞こえたらしい。頬をこれ以上ないほどに赤く染め、サイラスは悔しそうに懇願した。
「せ、せめて腰だけでも……」
サイラスの碧の瞳は潤んでいる。
「しょうがないわね、お貴族様は」
やれやれと首を振るとマーメイは石床に落とされていた薄布をひろいあげ、それでサイラスの腰を覆う。透けて見えはしても、その薄布一枚はサイラスの今にも壊れそうな魂をかろうじて守ってくれたようで、サイラスはかすかにだが肌にふれる布の感触に安心を見せた。その様子を見ていたダリクは残忍な笑みを浮かべていた。
「アルディオリアにいたときは、絹の衣や銀の甲冑をつねに身にまとっていた人が、哀れなものですね」
その言葉に頬をこわばらせるサイラスを、うっとりとした想いでダリクは眺めた。
ダリクは己のなかに加虐の快楽が生まれ初めていたことに気づいた。
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