上 下
20 / 84

通過儀式 一

しおりを挟む
「うっ!」
 
 思わず呻いたのはダリクだった。サイラスがダリクの顔めがけて唾棄したのだ。かっとなったダリクは平手でサイラスの頬をぶってしまう。

「くっ!」
 
 短い苦痛の声をあげるサイラスをダリクは睨みつけていた。サイラスは瞳に命をこめるようにして睨みかえしてくる。
 二人の戦いの日々が始まった。

「ここ数日でしっかり路をつけたのだから、今日は本格的に男を知ってもらうことになるわよ、サイラス」
 
 艶然と笑うマーメイをサイラスは憎悪のこもった目で睨みかえしたが、その顔は蒼白である。わずか数日でいっそうやつれたようだが、その様がまるで雨に打たれた薔薇のようでかえって色香が増してみえる。

 サイラスは先日とおなじように卓のうえに全裸で縛りつけられていた。
 室にはマーメイとダリクの他にディリオス、リリ、そしてサーリィーと呼ばれる肌のくすんだ娘がいた。娼婦にしてはひどく陰気な雰囲気だ。

「ダリク、準備はいい?」

 言われてさすがにダリクはばつが悪い。旅のあいだに娼婦を買ったことは幾度かあるし、男娼も一度だけ相手にしたことはある。だが、半陰陽を抱くのは初めてだ。しかもこうして人前でするのはひどく面映おもはゆい。顔に想いが出ていたのだろう。

「嫌なら他の男を呼んでくるけれど」

「いや、やる。やらせてくれ」

 ダリクはとことん悪党になる決意をした。みずから腰紐をほどくと、己自身を扱いた。
 サイラスは無言のまま青ざめた顔でダリクを睨みつけている。
 それは残酷な儀式だった。

「サーリィー、香油を持ってきてちょうだい。なにをぐずぐずしているの? 口はきけなくとも、耳はちゃんと聞こえているでしょう?」
 
 どうやらサーリィーは喋れないらしい。彼女が持ってきた香油の瓶を受けとったマーメイは、それを指にからませ、サイラスに近づく。

「い、嫌だ! よせ、やめろ!」

 どれほど叫ぼうとも、四肢はしっかりと卓に縛りつけられ、大開きにされた箇所に、マーメイがゆっくりと蜜のような油を塗りこんでいく。

「怖がることはないわ。ここはね、『悦楽の園』なのよ。客は勿論、娼婦も男娼もここでは悦びを得るのよ。苦しい想いはさせないわ」

「こ、これほど私を苦しめておいて、何を言う!」

 サイラスの怒鳴り声にマーメイはかるく眉をひそめた。

「あら、嘘ばっかり。苦しんでいるなんて、とんでもない。ほら、ここはこんなに喜んで……」

「あっ! ああ! やめろ、やめて」
 サイラスの口調はか弱げなものになる。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

営業活動

むちむちボディ
BL
取引先の社長と秘密の関係になる話です。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

少年達は淫らな機械の上で許しを請う

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

処理中です...