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思い出のなかで 三

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「それよりも爺、明日は王妃陛下主催の宴があるから、準備をたのむよ」

「かしこまりました。馬車もお召し物も最高のものをご用意しておきます」

 顔から血を流しているダリクなどいないも同然に、サイラスはそんなことを家令に言いつけて去っていく。

 我にかえったダリクは必死にサイラスを追おうとしたが、背後から召使の一人に頭を蹴られ、意識をなくしてしまった。気がついたときは、館の裏側に傷だらけで捨てられていた。本当に、死んだ犬でも放り捨てるようにして。胸内には金貨が三枚入っていたが、ダリクはよろよろと起きあがると、その金貨を思いっきり屋敷に向けて投げつけた。

 そして、彼はつらい思い出を振り切るように祖国を後にした。その二年後である。アルディオリアが敵国の奇襲を受けて滅んだのは。

 過去を苦く思い出しながら、ダリクは涙を流して意識をうしなっている美しい虜囚を見下ろす。室には彼ら二人きりだった。
 
 サイラス自身が暴行に加わっていたかどうかは疑問だ。本人の言うことが事実なら、彼はまだ童貞でもあるはずだ。あくまでも事実ならば……。

(だが、サイラスのせいでマーリアは死んだのだ)
 それはまぎれもない事実だ。サイラスが悪徳貴族たちへの饗応のためにマーリアを犠牲にしたのだ。そうダリクは思っている。

 ダリクは、サイラスの白い肌のうえに咲くちいさな赤い花のような乳首をしばし見つめ、右胸の乳首を指でつまんでみる。

「ん……」
 かすかにサイラスが身じろぐ。
 ダリクのなかで抑えがたい欲望の嵐が吹きあれる。小さな突起を摘まむ指に力がこもる。

「あ……ん」
 女のようなうめき声とともに、しばし天に避難していたサイラスの魂がこの濁世に戻ってきたようだ。

「ああ……」 
 薄目がひらいて、目のまえの男を認め、その碧の瞳に恨みと恐怖をよみがえらせる。

(まだまだ……。こんなものでは足りない。あのとき受けた俺の苦しみ、悔しさ、怒り、そしてマーメイの受けた苦痛を、これからしっかりあがなわせてやる!)
 ダリクの復讐は始まったばかりだった。

「決めた」
 薄い眠りから覚めたばかりのような気だるさと闘って、必死に強気をとりもどそうと眉をせいいっぱいしかめて見せるサイラスにダリクは言い放った。

「あんたを、淫売にしてやるよ。あんたの男も女もこれから毎晩、いや、昼も夜も可愛がって鍛えてやるよ。あんたを、とびっきりの売女ばいたに仕込んでやる」
 
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