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蕾責め 二
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「この子、というのはいいな」
ディリオスがいかつい顔をゆがめて苦笑し、もう一度ラオシンの裸体を上から下までじっくりと眺める。ラオシンがかすかに身じろぎするその仕草は、まるで世間知らずの乙女か貴婦人を思わせ、ディリオスはますます興奮してきた。
「だが、なかなか悪くないだろう?」
「まあね。かえって美貌が増したみたいだわ」
ようやく笑いがおさまったマーメイが、再度ラオシンを眺めて、うなずいてみせる。
実際、成人男性の証しでもあるような体毛をすべて剃られたラオシンの身体は、どこか以前にはなかったなまめかしさを放っており、他の娘たちも頬を紅潮させている。官能的な彫像をまえにしたような、猥画をまえにしたような心持ちにさせられるのだろう。
「これなら、きっとお気に召されるわ」
消え入りたい気持ちでいっぱいのラオシンには、マーメイの言葉を気にする余裕もなかった。ただ、せりあがってくる息をおさえ、これいじょう動揺してこの下品な連中をさらに面白がらせるような真似をしたくないという想いで精一杯だった。
「さ、おまえたちも、充分見たろう。もう下がっていいぞ」
昨日のように娘たちは不満顔を見せたが、とりあわずディリオスは彼女たちに退出するように命じる。周囲の男たちに向かっても同じことを言うが、ドドはせがむように言いつのった。
「私も手伝わせてくださいよ。それに、殿下だって今から少しずつ人の目に慣れておかないと」
その言葉はさすがに石になっていたラオシンの耳をひっかく。だが、無言をつらぬいて、ディリオスがどうするか黙って見ていた。
「そうだな。では、ドドとリリ以外は皆出ていろ。殿下はまだ初心だから、まずはこの人数ではじめるとするか」
不平顔をしつつ、言われたように彼らはしぶしぶ室を出ていった。
「さ、まずは俺たちだけで調教をすすめよう。こうして少しずつ人目に慣らしておかないとな」
「わ、私をいったいどうするつもりなんだ?」
とうとう我慢できなくなりラオシンは真っ青になりながら訊いた。人目、という言葉が死ぬほど気になるのだ。
「殿下、ここは娼館ですのよ」
マーメイが知れたこと、というふうにしたり顔で言う。
「なんのために殿下を調教すると思います? 最後は殿下を客のまえに出すためですよ」
ラオシンの心の臓は一瞬、鼓動を打つことを止めた。
「そんな、今更驚いてどうされましたの? 当然でございましょう。そのために調教するのですから」
「な、なぜ私が、……王子の私がそんな男娼の真似をしなければならないのだ?」
怒りと憎悪に声を震わせるラオシンに、マーメイは残酷な嘲りを向ける。
「それが、依頼主の望みなのですよ。依頼主は、殿下を男でなくしてやりたくてたまらないのですのよ」
「そ、そんな、……それぐらいなら、いっそ私を殺してしまえばいいではないか!」
男娼となって生きるぐらいなら、死んだ方が数百倍、いや数千倍ましだ。ラオシンは誇りたかく叫んでいた。
「今すぐ私を殺せ!」
「とんでもない、殿下を殺すなんて」
心底意外そうにマーメイが驚愕顔で首をふる。
「このお顔、お身体、その御気性。殺してしまうなんて国家の損失ですわ」
国家の損失というマーメイの言葉に、ディリオスが濃い黒眉をゆがめて苦笑をこぼす。
「まったくだな」
「お国のために役立つのが王族の勤めのはずでございましょう? 殿下はこれからそのお顔とお身体で、男を喜ばせるのがお仕事です。ちゃんと、いいお客を選んでさしあげますわ」
マーメイの言葉にラオシンは絶望のどん底に沈んでいく気がした。万が一にも自分を知っている貴族にでも売られたら……ラオシン=シャーディーが男娼になったことを知られたら……。その問いはラオシンに脱走の決意をいっそう深めさせた。
(逃げる! 絶対逃げる。……逃げきれないのなら、自害する)
逃げるか、死ぬか。もはやラオシンにはそれしかない。蒼白になって唇を噛みしめているラオシンの顔になにを思ったのか、マーメイの顔が優しくなる。
「でもこれだけは、ご安心なさい、殿下。何度も言ったように殿下のお身体には傷ひとつつけませんわ。殿下は、ただここですべてわたしたちに身をまかせて、快楽を覚えていけばいいだけのこと。客になる相手も、ちゃんとした立派な人ですわ。ここは高級娼館ですもの。殿下はここへ連れてこられただけまだ幸せですのよ」
「な、なにが幸せだ」
今も両手をしばられて全裸にされたままの自分の惨めな状況を見て、よくそんなことを言えるものだと、ラオシンはマーメイに怒りを爆発させずにいられない。
ディリオスがいかつい顔をゆがめて苦笑し、もう一度ラオシンの裸体を上から下までじっくりと眺める。ラオシンがかすかに身じろぎするその仕草は、まるで世間知らずの乙女か貴婦人を思わせ、ディリオスはますます興奮してきた。
「だが、なかなか悪くないだろう?」
「まあね。かえって美貌が増したみたいだわ」
ようやく笑いがおさまったマーメイが、再度ラオシンを眺めて、うなずいてみせる。
実際、成人男性の証しでもあるような体毛をすべて剃られたラオシンの身体は、どこか以前にはなかったなまめかしさを放っており、他の娘たちも頬を紅潮させている。官能的な彫像をまえにしたような、猥画をまえにしたような心持ちにさせられるのだろう。
「これなら、きっとお気に召されるわ」
消え入りたい気持ちでいっぱいのラオシンには、マーメイの言葉を気にする余裕もなかった。ただ、せりあがってくる息をおさえ、これいじょう動揺してこの下品な連中をさらに面白がらせるような真似をしたくないという想いで精一杯だった。
「さ、おまえたちも、充分見たろう。もう下がっていいぞ」
昨日のように娘たちは不満顔を見せたが、とりあわずディリオスは彼女たちに退出するように命じる。周囲の男たちに向かっても同じことを言うが、ドドはせがむように言いつのった。
「私も手伝わせてくださいよ。それに、殿下だって今から少しずつ人の目に慣れておかないと」
その言葉はさすがに石になっていたラオシンの耳をひっかく。だが、無言をつらぬいて、ディリオスがどうするか黙って見ていた。
「そうだな。では、ドドとリリ以外は皆出ていろ。殿下はまだ初心だから、まずはこの人数ではじめるとするか」
不平顔をしつつ、言われたように彼らはしぶしぶ室を出ていった。
「さ、まずは俺たちだけで調教をすすめよう。こうして少しずつ人目に慣らしておかないとな」
「わ、私をいったいどうするつもりなんだ?」
とうとう我慢できなくなりラオシンは真っ青になりながら訊いた。人目、という言葉が死ぬほど気になるのだ。
「殿下、ここは娼館ですのよ」
マーメイが知れたこと、というふうにしたり顔で言う。
「なんのために殿下を調教すると思います? 最後は殿下を客のまえに出すためですよ」
ラオシンの心の臓は一瞬、鼓動を打つことを止めた。
「そんな、今更驚いてどうされましたの? 当然でございましょう。そのために調教するのですから」
「な、なぜ私が、……王子の私がそんな男娼の真似をしなければならないのだ?」
怒りと憎悪に声を震わせるラオシンに、マーメイは残酷な嘲りを向ける。
「それが、依頼主の望みなのですよ。依頼主は、殿下を男でなくしてやりたくてたまらないのですのよ」
「そ、そんな、……それぐらいなら、いっそ私を殺してしまえばいいではないか!」
男娼となって生きるぐらいなら、死んだ方が数百倍、いや数千倍ましだ。ラオシンは誇りたかく叫んでいた。
「今すぐ私を殺せ!」
「とんでもない、殿下を殺すなんて」
心底意外そうにマーメイが驚愕顔で首をふる。
「このお顔、お身体、その御気性。殺してしまうなんて国家の損失ですわ」
国家の損失というマーメイの言葉に、ディリオスが濃い黒眉をゆがめて苦笑をこぼす。
「まったくだな」
「お国のために役立つのが王族の勤めのはずでございましょう? 殿下はこれからそのお顔とお身体で、男を喜ばせるのがお仕事です。ちゃんと、いいお客を選んでさしあげますわ」
マーメイの言葉にラオシンは絶望のどん底に沈んでいく気がした。万が一にも自分を知っている貴族にでも売られたら……ラオシン=シャーディーが男娼になったことを知られたら……。その問いはラオシンに脱走の決意をいっそう深めさせた。
(逃げる! 絶対逃げる。……逃げきれないのなら、自害する)
逃げるか、死ぬか。もはやラオシンにはそれしかない。蒼白になって唇を噛みしめているラオシンの顔になにを思ったのか、マーメイの顔が優しくなる。
「でもこれだけは、ご安心なさい、殿下。何度も言ったように殿下のお身体には傷ひとつつけませんわ。殿下は、ただここですべてわたしたちに身をまかせて、快楽を覚えていけばいいだけのこと。客になる相手も、ちゃんとした立派な人ですわ。ここは高級娼館ですもの。殿下はここへ連れてこられただけまだ幸せですのよ」
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