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野獣の群れ 四

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「う、うう……ああ、よせ、やめろ」
 あるかなしか、かすかな音が浴場に響き、しばらくしてラオシンの股間から黒い繊毛はすべて落とされた。
「あ……ああ」
 ラオシンはあまりの惨めさに、とうとう涙ぐんでしまったが、それでも泣きじゃくるような真似だけはすまいと下腹に力を入れた。
「よし、綺麗になったぞ。どうだ、殿下、さっぱりしたろう?」
 涙に光る夜空の色の目でラオシンは男を睨みつけたが、それはかえって相手を喜ばせるだけだった。 
「おうおう、気概だけは人一倍だな。そのまま抑えておけ」
「な、なにをする! はなせ!」
 ディリオスはその声を無視してラオシンの脇やすねにも液体をなすりつける。なにをされるか気づいて、ラオシンは悔しげにディリオスを睨む目にいっそう力を込めた。
 またもかすかな音がたち、やがてラオシンは頭髪をのぞいてすべての体毛を剃られてしまった。
「ん、上出来だ」
 数歩さがってディリオスは自分の仕事に満足し、そして別の意味でもうひとつ満足の溜息をはいた。
(ほう……)
 ちょうど青年になる寸前の少年の最後の季節でときを止められたラオシンの身体は、それでも鍛えられてつちかわれた筋肉といい、最上級の革のようになめらかなうっすら飴色の皮膚といい、絵のような美しさだ。さらにその身体のうえにところどころ浮かぶ玉の汗が彼の肉体美を強調して華を添えているかのようだ。
 だが、野卑な男たちにすら溜息をつかせるほどに美しい彼の身体を、つい先ほどまでおおっていた野性的な飾りのような毛は、もはやない。その身体は、毛がないというだけで、ふしぎと色っぽくも見えれば、いたいけでもあり、ひどく倒錯的に見えて、ディリオスは身体が熱くなるのを感じた。
(すごいな。これは掘り出しものだ)
 今も屈辱に顔をこわばらせ、それでも自分を睨みつけてくる誇り高いラオシンの身体をあらためて正面から見つめ、ディリオスは商売気ぬきで意欲がわいてくるのを自覚した。
 これからこの身体を夜毎よごと、いや昼も夜もかまわず調教し、王子としての誇りや自尊心をはぎとり、男娼に堕とすのかと思うと、胸がときめいてさえくる。
「さぁ、殿下、それでは広間に行こうか。女たちが待ちくたびれているだろう」
 こみあげてくる喜悦をおさえて、なるべくぶっきらぼうに言ったディリオスの言葉に、ラオシンの表情が変わる。
 ディリオスは床に落ちていた腰布をひろいあげ、それを手にしてラオシンに近づく。腰をおおってもらえるのかと、やや気を抜いた表情をしたラオシンのまえで、ディリオスはその布をしぼりあげるようにして、ラオシンの背後にまわると彼の両腕を布で戒めてしまう。
「うう……」
 痛いほどに腕を布でしばりあげられ、ラオシンは苦痛に眉をよじるが、それは次にはじまる責め苦にくらべれば甘いものだった。
「さ、行くぞ」
 縄尻をとるようにして、布につつまれた腕をひっぱり、ディリオスはラオシンにむりやり歩かせようとする。
「あ、い、嫌だ!」
 よたよたと不様にもたついていしまうラオシンを見るディリオスの目は獣そのものだ。
「そら、しっかりしろ」
「は、はなせ……、やめろぉ」
 苦し気に言いながらも、もうどうしょうもないと諦めたのかラオシンは顔を伏せ、懇願した。
「た、たのむ、なにか、腰にまとうものをくれ」
 敵に命乞いする捕虜のような気持ちで、ラオシンにしては精一杯下手にでたが、相手には通じなかった。
「そのままがいいだろう。せっかくさっぱりした身体だ、女たちに喜んでもらえ」
「た、たのむ!」
「ほら、行くぞ」
 ディリオスが大きな手でラオシンの肩を押し、ラオシンはまたよろめいた。
「ああ!」
 その後も、浴場を出、廊下を進むあいだも、少しでもラオシンの足が止まるとディオリスやドドと呼ばれた彼の腹心が肩や腰を押す。ときには尻を叩かれもする。
(くそぉ……)
 ラオシンは内心歯ぎしりした。
「殿下、どうした、足が止まっているぞ」
「ほら、早く、早く、みんな待っていますよ」
 胸の張り裂けそうな悔しさをおさえて歩を早めると、こんどは別の護衛がおどけた声を出す。
「王子殿下、先っぽが揺れてますな」
「ほら、急げ!」
 ぴしゃり、とドドが平手でラオシンの尻を打った。どっと、他の護衛たちが笑い声をあげる。
 ラオシンは息もきれぎれになりながら、頬をどす黒く燃やし、この屈辱の行進をつづけた。
(必ず……)
 手を背後できつく戒められた苦しい体勢で歩かされながら、ラオシンは自分に誓っていた。
(必ず、こいつらを皆殺しにしてやる……。それまでは死なぬ)


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