燃ゆるローマ  ――夜光花――

文月 沙織

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久遠の闇で 一

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「まったく、だらしない! 稼げない分は、あとで頑張ってもらうからね」
「わかってるわよ」
 やれやれ、とリキィンナは膨らんできた腹部を撫でながら、溜息をついた。粗末な木椅子ではお尻が痛い。
「ふーん。でも、ここがタルペイアお気に入りの魔女の家なのね」
 話を変えたくて、あえて声高に言うと、案の定、魔女呼ばわりされた女は不快そうな顔をした。
「怒らないでよ、本当のことじゃないの?」
 事実だった。狭い家、というより小屋の隅にはなにやら怪しげな道具や調理器具がぞんざいに置かれ、泥壁をおおうように様々な薬草が吊るされている。胡散臭い雰囲気に満ちており、この小屋を訪れるのは、今のように堕胎や、男をたぶらかす媚薬、憎い相手を消すための毒、そしてときに呪法をもとめるという、後ろぐらい願いを秘めた者たちだった。女はまちがいなく魔女であり、周囲からもそう思われていた。
「サガナ、やっぱり堕ろすのは無理なのかしら?」
 不満げにたずねたタルペイアに、サガナと呼ばれた女は首を横に振る。
「母体にまったく悪影響をあたえず堕ろすのは、もう無理だね。この女がにくまれ口をたたけなくなってもいいなら、喜んで堕ろしてやるけれど」
 薬草だろうか、竈の前にしゃがんで、なにか植物をぐつぐつ煮ている。鍋を木のへらでかきまぜていた手を止め、女は憎々し気に言った。
「それは、困るわね」
 なんのかんのといっても、リキィンナとは長い付き合いだ。あまり辛い目には合わせたくない。
「だろう。諦めて、今日はこの滋養薬を買うといいさ。こうなったら、一日でも早く元気な赤子を生んでもらうしかないだろう」
「本当にね。でも……情けないというか、馬鹿々々しいというか、よりにもよって、相手があの半端者はんぱものとはね」
 最後の言葉には複雑な響きがあった。嘆いているようでもあり、驚いているようでもあり、自嘲しているようでもある。
「あの、例のヘルマプロディスト? コリンナとかいう赤毛の美少女かい?」
 訊かれて、タルペイアは眉をしかめた。
「そうよ! あの子には驚かされっぱなしよ。ええ、ふたなりだったのは、気づいていたのよ。あの器量だし、これは金になると思ったのよ。最初はうんと高く売りつけるつもりが、それが、それが、よりにもよって、」
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