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三
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リィウスから事情を聞いたディオメデスもさすがにナルキッソスの秘密には驚いた。そういう珍しいことが、世にあるのは聞いたことがあるが。
不憫でもあるが、いずれは兄弟は悲しい別れを迎えることになっていのだという気もする。
(どのみち、永遠に一緒にいられるわけはないのだ)
二人が住んでいた邸は売り払い、アンキセウスには新しい奉公先をさがしてやった。当初、アンキセウスはリィウスに仕えることを懇願したが、ディオメデスはきっぱりと断った。
(嫉妬といわれるかもしれないが……、アンキセウスをこのままリィウスの側に置いておくのはあまり良くない気がする)
それに、過去とは訣別し、あらたな人生を築きたいのだ。リィウスと二人で。
「アンキセウスのことは心配するな」
そう告げると、リィウスがかすかに頷く素振りを見せた。
あと気になるのは、メロペだ。彼もまもたあれから行方が知れない。よもや、アウルスとともに行ったのかと疑ったが、そのことをタルペイアに話すと笑われた。
(まちがっても、そんなことはないわ。……でも、まぁ、メロペは行くべきところへ行ったのでしょうよ。少しだけ残念ね、客が減るのは)
気にはなったが、ディオメデスにはメロペのことはそれほど案じる想いはない。薄情だが。
日差しはますます強くなってきた。ディオメデスも自分のフードで顔をまもり、低く囁いた。
「急ぐか」
ローマを去るときがきたのだ。
最後にリィウスとともに、もう一度人混みを眺めた。忙し気に行き交う人々、物売り、輿でいく貴人も見えれば、異国から来た奴隷らしき男たちもいる。派手な衣をまとった女たちは、玄人か。買い物品を抱えた女たちもいる。
これが、視界に焼きつける最後のローマの光景になるだろう。二人とも、同じことを想っていたかもしれない。
このとき、ディオメデスもリィウスも気づかなかった。近くの小さな店の影から、二人を陰鬱な目で睨みつけていた人影に。
不憫でもあるが、いずれは兄弟は悲しい別れを迎えることになっていのだという気もする。
(どのみち、永遠に一緒にいられるわけはないのだ)
二人が住んでいた邸は売り払い、アンキセウスには新しい奉公先をさがしてやった。当初、アンキセウスはリィウスに仕えることを懇願したが、ディオメデスはきっぱりと断った。
(嫉妬といわれるかもしれないが……、アンキセウスをこのままリィウスの側に置いておくのはあまり良くない気がする)
それに、過去とは訣別し、あらたな人生を築きたいのだ。リィウスと二人で。
「アンキセウスのことは心配するな」
そう告げると、リィウスがかすかに頷く素振りを見せた。
あと気になるのは、メロペだ。彼もまもたあれから行方が知れない。よもや、アウルスとともに行ったのかと疑ったが、そのことをタルペイアに話すと笑われた。
(まちがっても、そんなことはないわ。……でも、まぁ、メロペは行くべきところへ行ったのでしょうよ。少しだけ残念ね、客が減るのは)
気にはなったが、ディオメデスにはメロペのことはそれほど案じる想いはない。薄情だが。
日差しはますます強くなってきた。ディオメデスも自分のフードで顔をまもり、低く囁いた。
「急ぐか」
ローマを去るときがきたのだ。
最後にリィウスとともに、もう一度人混みを眺めた。忙し気に行き交う人々、物売り、輿でいく貴人も見えれば、異国から来た奴隷らしき男たちもいる。派手な衣をまとった女たちは、玄人か。買い物品を抱えた女たちもいる。
これが、視界に焼きつける最後のローマの光景になるだろう。二人とも、同じことを想っていたかもしれない。
このとき、ディオメデスもリィウスも気づかなかった。近くの小さな店の影から、二人を陰鬱な目で睨みつけていた人影に。
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